グレイの初々しく、可愛らしい反応を見てきたライネス。どうやら彼女のいたずら心に火がついてしまったようだ。

「折角の二人きりの機会だし、聞いておこうか」
「な、何を、ですか…?」

そのいきなりさに、グレイは困惑する。ライネスの体温が暖かい。自分を抱き締めるその細い腕が妙にグレイの何かをくすぐっていく。

「単刀直入に言って、君は兄上の事、好きかい?勿論、異性として、だ」

「……え、えええっ、ええっ、そ、そんな、いきなりそんなこと言われても、拙は…」

いきなりこんなこと言われて困惑しない者はそうそういないだろう。グレイもそのあまりにもいきなりな質問に顔が真っ赤になる。困惑で頭が真っ白になっていく。

「…どうやら図星のようだ」

…意識したことは、実は無かった。でも、聞かれてみて、意識させられる。
自分は、師匠のこと、好き、なのかもしれない。

グレイはそう気づいた。心の何処かで、ライネスは自分の師への憧れ。それはいつしか自分の知らない内に、恋へと変わっていた。

「…は………はい……拙は…師匠が…」

「うんうんうん、素直でいい反応だ。まるで恋愛小説の恋する乙女みたいだ」

恥ずかしい。グレイの心境はそれ一つだった。ライネスには恐らく相当前から見透かされていたのだろうが、こうして言われると恥ずかしい。

「…ふむ、私としては君は兄上を狙うライバル…ということになってしまうが、ここは一つ、迷える乙女に恋のレクチャーでもしてやろうかな」

「い、一体、何を…」

グレイがそう言い終わる前にライネスはグレイの体が自分と向かいあうようになるよう、グレイの体を自分の方へ向かせる。
グレイの顔は困惑と照れの入り交じった表情。顔はトマトのように赤かった。

「愛する者と愛する者がまずすること。それはキスだ」

そう言うとライネスはグレイの腰と肩を抱き寄せる。
まさか、今からするのって…グレイはそれを想像して、赤かった顔をもっと熟れたトマトのように赤くした。

「…ふふ、それぐらい察しがよくないと困ってしまうからねぇ、そう、今のうちから君にキスのレクチャーをしてあげようと思ってねぇ」

そのまさかだった。とっさにグレイは止めるように言う。

「そ、それは…まだ拙には早すぎるかと…」
「キスのレクチャーに早すぎるも無いさ。今の内に、そういうのはやっておくべきだと思うけどねぇ」

顔を赤くしてお手本のように恥ずかしがるグレイ。ライネスのような者にとって、それはまさしく理想形の反応。ライネスの口角は思わず吊り上げってしまう。

「でっ、でもやはり、拙にはそういう…」


グレイが言い切る前に、ライネスの唇が、グレイの唇に触れた。