衆議院選挙が10日に公示された。22日の投開票に向けて、各党の熾烈な選挙戦が幕を開けた。
「自民・公明党」、「希望の党・日本維新の会」、「立憲民主党・共産党・社民党」の3極が争う構図になる。

 ここで注目されるキーワードは、「保守」と「リベラル」だ。自民党は保守、希望の党も保守、立憲民主党はリベラルの立場を取っている。しかし、実際はどうだろうか。

 米国や欧州各国では、どこも保守とリベラルという二大政党がある。例えば、米国では共和党が保守で、
民主党がリベラルである。英国では保守党が保守で、労働党がリベラルだ。こういった二大政党が、権力を奪取しようと戦っている。

 では、保守とは何かといえば、「新自由主義」だ。経済でいえば、自由競争を促し、地域の伝統を重視し、
自国の利益を強く守る立場を取る。政府はあまり介入せず、市場の競争原理に任せる「小さな政府」を目指している。

 その保守が政権を取ると、自由競争が加速するから、貧富の格差がどんどん広がってしまう。その上、勝者よりも敗者の数が増えていく。

 国民の不満が高まったところで選挙をすると、今度はリベラルが勝つ。リベラルとは、格差をなくすために規制を設け、
社会的弱者の権利を守り、国際協調を目指す立場である。社会保障、社会福祉にどんどん金を使う。いわば「大きな政府」を掲げるのである。

 すると、今度は財政が悪化してしまう。次の選挙では保守が勝つというわけだ。このように、
保守とリベラルが交代で政権を担うことで、社会のバランスが保たれている。保守が悪いとか、リベラルがいいとかという話ではない。

日本に「保守政党」はない

 その点で、日本は極めて特殊な国だと思う。

 日本では、一時は政権交代があったものの、長い間、自民党が政権を担ってきた。自民党は「保守政党」と言いながらも、経済政策では相当リベラルだ。

 政権交代が起こらないように国民の支持を集めるため、保守にも関わらず、「バラマキ」のようなリベラル的政策をとる。その結果、日本の国の借金は1000兆円を超える規模まで膨れあがってしまった。

 2009年に民主党が政権を取った時は、「密室談合政治から、開かれた政治にする」「戦後の日本を大きく変える」と言っていたが、
実際には自民党とほとんど代わり映えはしなかった。それどころか、民主党は政権運営に慣れていないから、自民党よりお粗末なものだった。結果的に、3年3カ月で政権は奪われてしまう。

 なぜ、民主党は自民党と代わり映えがしなかったのか。それは、民主党もリベラルだから、
自民党のやっていることと基本的には変わらなかったからだ。今度の解散総選挙でも、その点が明確に示されている。自民党は消費税率10%への引き上げを行うと言うと、野党はみんな反対する。

 ちなみに、欧州の消費税率は、総じて20%を超えている。10%になったところで、日本の消費税率は非常に低い水準なのだ。つまり、自民党はバラマキをするが、野党はもっとバラマキをするということだ。

 財政を健全にしようなどと考えている党は、どこにもない。日本に本当に必要なのは、リベラルではなく、
保守なのだ。ところが、自民党のみならず、他の政党はいずれもリベラルで、いってみれば自民党の左側に、よりリベラルな政党が連なっている。これは大きな問題だ。

 僕は、自民党が勝利した過去4度の選挙で、すべての野党の党首たちに「アベノミクスの批判など聞きたくない。あなたたちが政権を取ったら何をするのか。対案を出せ」と言ってきた。

 しかし、4度の選挙で誰も対案を出せなかった。これが、野党が大敗した理由である。国民の多くは、
アベノミクスに満足して自民党に投票しているのではない。野党に対案が出ないから、仕方なく我慢しているだけだ。今回の選挙も同様だ。野党に具体的な対案は出てきていない。

 小池百合子氏率いる希望の党からは、「ユリノミクス」という言葉が出てきているが、中身はない。
これでは支持など集まらないだろう。一時は、自民党にとって希望の党は脅威だったが、小池氏が「排除の論理」を言い出した時から風向きが変わってきた。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/101200041/

>>2以降に続く)