>>79
なんゆーとん? たったいまにーから命の保証うけたばあやん。

【男の台詞の意味が分かっているのかいないのか、子供はそう言い放つ。】
【そして、よっ、と男の懐を離れて地面に立つ。抱きついている間に腰は治ったようだ。】

火傷とか、ごめんなぁ〜。わし薬持ってないんよ。狸伝膏っていうけど、わし薬作れんのよ。
あ、これ塗ったら治るかもしれん。なんの葉っぱかようわからんのじゃけど。

【そう言って子供は葉っぱを差し出す。】

店行って火傷の薬買って来よが? あ、わしの巣行ったら薬あるかもわからん。

【巣、どうやら一応拠点にしている場所があるようだ。】
【子供は少し小さな声で、まいっか、にー丈夫そうじゃけん、と付け足す。もしかすると男には聞こえなかったかも知れない。】

じゃあすなさここで待っとってね。わしにも準備があるけん。その間の寝床はどうにかして。
ほんだら、いんでくーけんね〜。

【明日の朝ここで待っていて欲しい、準備をしてくるから、その間の寝床は自分でどうにかして、そしたらもう帰るから、
 と言うような意味であるが、例えば方言に馴れていない人が聞けば、そして子供が小さな声で付け足した言葉を聞き逃していれば、
 薬を調達してくるからここで待っていて欲しいという風に解釈できるかもしれない。】
【もし男がそう解釈すれば、数時間待ちぼうけを食らうかも知れない。】
【男は子供を待ってもいいし待たなくてもいい。】
【子供は元気よく自分の巣へ向かって走り出した。】
【後には街灯の微かな光と、濃密な夜と、僅かな余韻が残るのみである。】