「気が向いたら開放してあげるわ」
そういって白井は去っていってしまった。もはや陽子には一つしか道は残っていなかった。
掃除の後の静寂が続く。どうやら帰りの会をしているようだ。そしてついに玄関から大勢の生徒の声が聞こえてきた。
今日は部活動休暇日で、全校生徒が一斉に下校するのだ。それを思い出しただけで陽子の全身が真っ赤に熱くなる。
案の定、生徒達が陽子の周囲に大勢集まってくるのが分かった。陽子は全神経を耳に集中して
何も聞こえないようにした。しかし「カシャ」「ピコピコーン」といった携帯電話のカメラ特有のシャッター音だけは
耳から締め出すことが出来なかった。晒し者になっているのだと思うと、真冬なのに水を浴びたくなるほど体が熱くなった。
周囲に撒いてある危険物のため体に触ろうとする人間はいなかったが、ざわざわという囁きとシャッター音は止むことが無かった。
ほんの少しでも違う動きを見せると生徒らに見続けられてしまうと思い、じっと同じ姿勢をとり続けるしかなかった。

少しずつ生徒達の声も少なくなってきた。そしていつしか全くしなくなった。
その代わりに肌に突き刺さるような夜の風が吹き始めてきた。
周りはもう暗くなったのかどうか、目隠しされている陽子には分からなかった。