終業後のいつもの風景。この日たまたま上がり時間が一緒になった菜穂と美紀は、会社の食堂で夕食をとりながら、
軽い会話を楽しんでいた。
オフィスでは俊一(飯田俊一)が、新入社員の智子の監督の下で終業後のフロア掃除をやっている時間だった。
食後のコーヒーを飲みながら、話題はふと38歳の『係員補助』の俊一に移った。
この会社ではどの部署にも俊一のような係員補助がいて、一回り以上年下の女性総合職社員の下で働いている。
給与も業務上の権限も存在感も、女性総合職社員に比べたら限りなくゼロに近い彼らはよく
『補助クン』と呼ばれて馬鹿にされ、半ば奴隷のように扱われていた。

美紀「ねぇ菜穂、最近の俊一さ、態度がデカくなってると思わない?」
菜穂「うーん。そうかな?お茶汲みとかコピー取りのときは言われたらすぐ動くようになったと思うけどな。
   靴磨かせるときは私、特に気にしてないから分かんないけど。」
朝、オフィスの女性上司全員の靴を磨くのは、俊一の大事な仕事の一つだったが、菜穂は靴を磨かせる時も最初と最後の
挨拶(女性の靴に手を触れる時、俊一は土下座して挨拶することになっていた)の時も、足許の俊一は全く無視して
勝手に磨かせていた。1年前の菜穂は俊一の教育係だったから、もっと俊一の所作に注意していたが、俊一の教育係は
新入社員の智子に代わり、菜穂は菜穂で2年目になり業務も増えてきたので、俊一に構っている場合ではなかったのだ。