・・・俊一は再び精治のことを、根っからの奴隷人である精治のことを思い出した。

俊一(精治さんは女性上司の履き物に触れるときは、たとえそれが持ち主様たちに履かれている状態でなくても、
   靴磨きをするときも靴入れの整理をするときもいつも、必ず両手で触れるように、自分の目線よりも
   靴が高くなるように気を付けてるって、そう言ってたな…)

実際精治は『足の入っていない』靴に対しても、手で持つ必要があるときは必ず両手を添えて捧げ持ち、
さらにその靴を決して見下ろすことのないようにしていた。

例えば靴を磨く時は、その靴を両手で高々と掲げ上げ、下から見上げるようにして磨き、
あるいは台の上に載せ、自分は靴を載せた台より下段の床に顎をくっつけて腕だけを上に伸ばして磨くのだった。

さらに地面に置かれた靴を拾い上げて移動させる時には、わざわざ靴の前にひざまずいて土下座し、
自分の頭と靴とが同じ高さになってから、両手で靴を包んで持ち上げるのである。

これは精治が『女性上司様たちのお召し物に対する敬意を忘れない』ために、自主的にやっていることなのだと、
俊一はかつて聞いた。
聞いたときは信じられないような不思議な話に聞こえたが、今ではその話の内容も、
精治の女性上司たちの脚部・足許に対する大仰なまでの慇懃ぶりも、自然なことのように思えるのだった・・・