「これは始まりである。かつての自分を捨てることは容易ではあらず、深く悲しい絶望を伴う。しかし、これは汝らにとっては恵みなのである」
 黒天使は中空高くから説いた。
「畜生、奴隷・・・それらは下劣な種族が身勝手につけた俗称である。
ヤプーとは、高貴なるものに仕えるという、天から与えられた使命と、自らがそれを全うするに相応な存在であるということを理解した聡明な種族である。自我、思考、知性。それらは本来汝らが持つべくには値わざるものであり、こうして失われることに、何の悲観の余地もない。
汝らがあるべき姿。
ヤプーとして生まれ変わること。これは絶対的に汝らにとっての幸福の至りなのである。
さあ、今こそ、神畜としてのその姿を。汝ら全てでここに晒してみよ」

荘厳に手を広げて黒天使が論じ終えると共に、階下で茫然と整列していた神畜たちが一斉に立ち上がり。
どこからともなく再び現れた先導畜達を先頭に、足並みをそろえて黒天使のもとへ、その巨大な階段を行進し始めた。

一方、美鈴達も、黒天使の演説に背を押されるように、最後の神畜を作り出すべく、一層強く香織の手を引き始めた。
香織は力なくそれに従う。香織だけに、今の黒天使の言葉は響かなかった。
先ほど拒んだ、その金色の泉へと下りる階段の一歩を、香織はただ茫然と踏み降りて行った。