その手には先刻責め具の中から真っ先に選んだ鼻フック。
銀の金具が恐ろしげに光りながらヴィーナスの濡れた鼻孔に差し込まれてゆく。
頭頂部に回されたベルトは徐々に引き上げられてゆく。
それにつれて形のよい鼻孔は歪みながらじわじわと吊られてゆく。
ベルトはそのままうなじまで引き下ろし、先端のアジャスターで首輪に固定した。
さらにウラヌスは肌身離さず持つ「宝剣のタリスマン」を懐から取り出す。
器用なことにそれをネプチューンのタリスマンのごとく手鏡に変形させた。
そしてヴィーナスの眼前に突きつける。
「見ろ」
本能的に見てはいけないとわかっていたが、ウラヌスの言葉に逆らえなかった。
震えながら鏡に映った自分の顔に焦点を合わせるヴィーナス。
まず飛び込んできたのは吊り上げられ楕円形に醜く変形した鼻孔であった。
ひきつれるように上唇も持ち上げられ、口はだらしなく半開きのままである。
自分の美しい顔の真ん中に突如として出現した醜悪な2つの穴が
輝く美貌を完膚なきまでに台無しにしてしまっていた。
(ひどい、ひどすぎる・・・)
あまりの衝撃に目を閉じることすらできず、涙を流すことしかできない。
泣き濡れた目を覆うようにアイマスクを装着するウラヌス。
茫然自失のヴィーナスはウラヌスによって為すがままである。
ウラヌスはヴィーナスの心を落としたのだ。たった1つの鼻フックで。
そしてヴィーナスは砕かれた心のまま暗闇の世界に堕ちていったのである。