アンカーは、死にものぐるいのレースを続けていた。何しろ、クジでアンカーに決まった自分達は
校庭を一周しなければならない。自分の顔よりも大きな女子のお尻を背中に乗せたまま。
そんな中でも特に悪戦苦闘していたのは、孝司だった。彼が背中に乗せている女子は、身長170cm超、
体重も60kg超というクラスの中でも特に大きい麻衣だったのである。
「ひぃ、ひぃ……」と細い息を吐きながら、一歩、また一歩と進む孝司。そんな孝司も、アイツよ
りは“マシ”であった。クラスのボスである“あの子”を背中に乗せ、最後は太腿に首を挟まれた
まま半ば引きずられるようにしてゴールをしたアイツよりは…(このことも後ほど語ろう)。
他の男子と自分を比較することは気休めにはなるが、自分の倍も体重のある麻衣を背中に乗せて校
庭一周しなければならないという現状は何も変わらない。現在3位の孝司だが、4位に抜かされる
のも時間の問題である。
「孝司!遅い!」
上から麻衣の怒声が飛ぶが、だからと言って早く走れるわけではない。腕はプルプルと震え、一歩
前に進むために腕を出すだけで潰れそうなのだ。
「麻衣、お先にぃ〜!」
隣を4位で走っていた梨枝・慎二ペアが追い抜いていく。このことで、麻衣もイライラしてきたよ
うだった。何しろまだ自分たちは1/4も進んでいない。すぐ後ろには5位の馬も見えている。もうす
ぐビリになってしまう。一度ビリになったら、逆転は絶望的だろう。
「速く進みなさい!それでも男なの?孝司!!」
男子に何度も地獄を見せてきたお尻を孝司の背中の上で揺する。それでも進まない孝司に、いよい
よ麻衣は怒った。
「もう!なんなのよまったく!」
そして、彼女は跳ねた。孝司の背中の上で、お尻をゴム鞠のようにして。その体重に孝司が耐えら
れるはずがなかった。
「フギュウウ!!!」
と声を立て、孝司は潰れてしまった。小柄な孝司が大柄な麻衣を支えるというのが、そもそも無理
だった。“あの子”のように反則的な行為をしなければ、の話であるが。
……結局、孝司のせいでチームはビリでゴールインした。その後の孝司は、同チームの4人の女子
に壮絶なリンチに遭うことになる。体中に青あざを作り、校舎裏でパンツ一丁になった孝司が放課
後に発見されるのだった。