息苦しくなって手足をばたつかせ抵抗する浩子だったが、香苗は冷静で、低くこうささやいた。

  ‘おとなしくして、暴れても無駄よ、アナタにはここで死んでもらう。苦しまないように
   クロロホルムで眠らせてあげるのよ。このバイトを選んだのが、不運だったわね・・・’

  香苗はパンプスを押し当てながら、反対の手で浩子の首を締め、浩子がより深く息を吸い込む
  ように仕向けた。さほどの労力も要せず、色白のほほを少しだけ赤めるだけで香苗は浩子を
  失神させた。

  そして意識を失った浩子の呼吸を止めるため、その鼻と口を何のためらいもなく、薄い黒革手袋を
  はめた利き手でピッタリと塞いだ。浩子の呼吸のタイミングをすぐにつかみ、吸い込むときに黒革
  手袋を合わせるようにあてがえば、浩子の呼吸はたやすく密封されてしまう。
  2分ほどで浩子は窒息死させられた。

  それから香苗は間を置かず、浩子のバッグから携帯を探し出すと、住所録からある名前を探し出した。
  
  【まさみくん−安住正海】

  ‘これだわ!’ 香苗の口元が冷たく笑った。そしてその相手の番号をプッシュした。
  (第二部 安住正海の話に続きます)