小説本は、文章だけでなく、挿絵や装丁も大切な要素だ。

「ヤプー」は、この作品に惚れこんだ三島由紀夫が、出版化に向けて尽力したからこそ、
世に出ることができた。「ヤプー」初の単行本は1970年2月に出た。挿絵は宮崎保之。
しかし、三島は、宮崎の挿絵が気に入らなかった。寺山修司との対談でこう言っている

「挿絵は、もっともっとリアリスティックでなきゃいけない。
変に抽象化しているが、あれでは作意が生きないよ。(中略)
少年雑誌みたいなリアリズムが『家畜人ヤプー』みたいな小説には
必要なんだ」(「潮」1970年7月号)

宮崎には気の毒な感想だが、三島としては、本作りを編集者任せにしていたら、考えてい
た趣向とは違う挿画・装丁となり、がっかりした、といったところだろうか。

このとき三島の頭には、「リアリスティックな挿絵」を描く画家として、村上芳正が浮か
んでいたはずだ。村上はかねてから三島の舞台のポスターや本の装丁を手がけていた、
 最初の単行本と同じ年に同じ出版社から出された「改定増補限定版」では、村上が挿画
を担当している。
なお、この「村上ヤプー本」が出た11月のその日、三島はそれを見ることなく死んじゃった。

「改定増補限定版」は、後に角川文庫になっている。もちろんカバーも挿画も村上の絵だ。