十五

 ワードワークを終えて帰ってくると、平木理央が言った。
「ずいぶん早かったわね。張り切るのは良いけど、
ウォーミングアップの段階からそんなに飛ばしていると、後でばてちゃうよ」
 理由は百も承知のはずだ。
 キャンパスから学外に出ると、奈穂子はいっそう注目されたからである。
奈穂子の大学はちょっとした学園都市のような場所に立地している。
最寄りの駅から見ると一番奥の一に奈穂子の大学があり、
駅までの途中に他の大学があり、高校、中学、小学校などが立ち並んでいる。
駅への道はもうひとつあり、そちらのルートも大学から小学校まで並んでいる。
ロードワークは、一方のルートを駅まで走り、帰りはもう一方のルートを走る。
 つまり大学周辺の他校の学生・生徒にブルマ姿を晒さなければならないのだ。
ブルマを穿いたことも見たこともない小学生にさえ、「パンツで走っているみたい」と指さされた。
 一番反応が大きいのは女子高生で、遠くから奈穂子の姿を見つけると、指さして露骨に笑い、
すれ違いざまにさらに大きな声でゲラゲラ笑って、
「よくあんな格好できるね」
「私なら耐えられない」
「変態じゃない!」
などと嘲りの声が聞こえてきたりする。
 それほど露骨でなくても、たいていの女子学生は軽蔑のまなざしでみていることが、
手に取るようにわかる。
 無理もない。
「陸上競技部、三年生、鈴野奈穂子、三軍」と書かかれゼッケンが致命的なのである。
補欠の部員が罰ゲームで真っ赤なスクールブルマを穿かされ、
晒し者にされていることは誰の目にも明らかだからである。