「まあ、重要参考人ということで、一晩か二晩ぐらいはご足労願いましょうか」
そう話した保安官の鼻の下は完全に伸びていた。

「えぇと、被害者は『マイク・コールマン』、29歳。職業はプロレスラー、と」
保安官補佐が、調書にそう記した。

「でも、良いんですかい? 美女とはいえ、大した取り調べも無しに"お持ち帰り"しちゃって」
「こんな、ど田舎勤めの保安官に何言ってんだ。俺が黒というやぁ、黒なんだよ」
大国の地方都市、そこから更に外れた片田舎だからこそ、といったところだろうか。

「一応、形だけの調書は作りますからね。『ジェシカ・コールマン』、仕事はパートタイマーですね」
「あんな美女がパートタイマー・・・ねぇ。やっぱ、訳アリかね。こりゃ、ちゃんと"調べ"ないと、な」
治安どころか、犯罪も有無も保安官の胸先三寸、気分次第。

「言われた通り、手錠を後ろ手に掛けて牢屋に入れましたけど、そこまで厳重にする必要あるんですかね」
「美女がそう、"お望み"なんだ。リクエストには応えてやらんと、な」
"事が済んだ"ら声掛けてやるよ、と言って保安官は席を外した。

―――。

「しかし、プロレスラーを二つ折りにする『怪物』なんて、ホントに居るんだろうか」
保安官が調べた限りでは、被害者に衣服には妻であるジェシカの指紋しか見付からなかった。

「まあ、手袋でも付けて犯行に及んだ、って所かな。プロレスラーってんなら、同業の線か」
保安官補佐はそんな適当な推理をしながら、"お楽しみ"の時間を待つことにした。

「でも、被害者と一緒に襲われたであろうジェシカのネグリジェにも、犯人らしき指紋は無かったんだよな・・・」
手袋を付けたまま、女を襲う犯人なんて果たして、本当に居るんだろうか。