桃愛のことは、もうそれこそ彼女が子供の頃から知っていた
元々この家の当主の専属執事であった久城が桃愛付きになったのは、久城がまだ成人する前のことである
小学校にも上がっていない少女の印象は、ただ、可愛いだけであった
それは性的なものではなく、かと言って妹でもなく、懐いてくれる桃愛が可愛かった

桃愛は親の愛に恵まれず、寂しい子供時代を過ごした
久城は傍でそれを見守り、慰め、微力ながら支え続けていたが、いつからだろう
このような弱い部分を自分にだけ曝け出してくれる桃愛を愛おしいと感じるようになったのは
自分の胸に顔を埋めてくる桃愛の身体付きに、女を感じるようになったのは
それが恋であり愛であることを自覚するまで、それほどの時間は要さなかった
そして、桃愛が久城に対し同じ想いを抱いていることにも気がついていた
それからまもなく告白されたが、自分の想いは打ち明けられるはずもない
自分が桃愛に仕える身であるから?桃愛には婚約者がいて、意思とは関係なく他の男のものになってしまうから?
自分でも説明がつかないが、ただひとつ確かなのは、愛しているということだ
しかし口にすることはない
その代わり、今日も彼女の顔が見たくて、彼女の部屋を訪ねる

桃愛様、久城です
頼まれていた本をお持ち致しました

(夕食の後。ドアの前でノックはせずに声をかける。頑丈なそのドアの向こうに声が聞こえるはずもないのだが、不思議と久城の声は桃愛には届く)
(身なりは完璧に整えているつもりであったが、ワイシャツのボタンが外れていた、それを嵌めながら、ドアが開かれるのを待つ)