通りすがりの半部外者です。
……ここ面白すぎです。
なにより夕霧人気が。
生殺しな刺激にやわやわと創作意欲を刺激されました。
以下お目汚し失礼(少々長いです)
ちなみに私=夕霧、督の君=柏木。双方27歳くらい。時期的には「柏木」。回想は「玉蔓」。


「あの方をたのみます」
 友は衰え果てていた。疎らに髭を生やした土気色の貌のなかで両目ばかりが清い。
 その濁りない目で見あげながら、思いもかけないほど強い力で手を握りしめてくる。
「大将の君。従兄弟どの。吾妹の夫の君よ。たのみます。二の宮さまを。私の死んだ後にもご不自由のないように」
 死ぬなどと。縁起でもない。
 そう言い返すのがためらわれるほどにも衰えきったありさまだった。
 私は肯くほかなかった。
(督の君。従兄弟どの。私の妻の兄よ。あなたは愛しんでおられたのか? 此岸を離れる際に、あなたの心に浮かぶのは二の宮さまであられたのか?)
 その思い付きは私の心をあとからくる宿酔のように傷めた。
 私にとって衛門の督はもっとも近しい友であり、伯父の子であり、妻の兄であり……つまり、それだけである。
 もちろんそれ以外のものではない。それ以外のものであったのはほんのひと時だけ、今から思えば若いというより殆ど稚い年頃のひと夏ばかりである。