■ ボナールとオーギュ 〜学生編〜

1859年――南フランス・プロヴァンス地方
私立男子寄宿舎 ラコンブラード学院 はずれの森の中で、その事件は起きた

「さすがは学院を裏から牛耳る影の実力者だな。用心棒も付けず1人でこんな物騒な集会に来るとは。大した度胸だ」

伐採されて積み上げられた材木の山の上に、満月と重なるようにして
その男――ジャン=ピエール=ボナールのシルエットが重なる

年齢は17歳、背丈は180センチ以上、がっしりとした体格にパーマのかかった黒髪
もみあげは顎髭(あごひげ)にまで繋がっており、一見して獅子のような面構えだ

ボナールはパリの高等美術学校 エコール・デ・ボザールに「合格 間違いなし」と美術教師たちから
太鼓判を押されるほどの彫刻の才能を持ちながらも、その恵まれた体格と喧嘩の強さを生かして、
並みいる不良どもを下剋上し、今や学園一の不良番長と噂されていた

不良たちのたまり場になっているのは森の奥の材木置き場で、敷地の半分には材木が置かれ、残りは広場になっている
木こりたちの作業小屋もあり、ボナールはここで様々な道具を作っていた

番長の座る材木の“玉座”を扇型に取り囲むようにして、部下の不良たちが1人の下級生と対峙している
その下級生の名は―― オーギュスト=コクトー

弱冠14歳にして学院内に生徒総監システムを構築できたのは、
ひとえにコクトー家が、学院に多額の寄付金をしているせいだとの声もあるが、
オーギュスト本人は持ち前の人心掌握術の才能ゆえだと自認している

ボナール「ほぅ…これは噂に違わぬ美しさだ。たしかコクトー家は男爵家だったな。
ボナール家もそうだ。是非ともお近づきになりたいね」

ボナールから手放しで賞賛されるオーギュストは、たしかに美しい若者だった
小さい!と思わせる しなやかな細い肢体に切れ長の鋭い目、センター分けの金髪はサイドに長く伸ばされている

ギャザーやタックやフリルでエレガントにあつらえた白い絹のブラウスは、
胸元がV字に大きく開き、首にはリボンタイが巻かれていた
ボトムスは細いからだのラインに合わせて、スキニーなテイストに仕上げられた黒いパンツ