小野は昨夜、日本では皆既月蝕の話題で盛り上がっていることを報道で知った。
ふと、天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも という古の和歌が小野の頭をよぎる。かつて奈良から見上げた月。徹也と並んで月を眺めたこともあった。
徹也に対しては月のように接していたつもりだった。時に満ち、時に欠け、常に同じでないから求められる。満ちれば周りの星を見えづらくして心を占める。欠ければ夜道を暗くして迷わせる。そんな関係で他者の心を掴むことが、小野を今の地位まで上り詰めさせたと言える。
だがあの日、徹也は月を捨て、太陽に向かって飛び立ってしまった。月は蝕を抜ければまた輝くが、小野が再び徹也の空に登ることは、もう二度とない。