彳育攵也が喫煙をするようになったのはいつからだろうか。
洗濯物を取り込み終えた軒先で、ガラス戸に背を向けてタバコをふかす彼の横顔を、人一人分空けて座って私は眺めていた。教団の教えでは酒もタバコも禁じられている。何故あんなものを吸うのだろう。体を蝕む、苦い煙。
マンションでは部屋の中でしか吸わないと話していた。隣近所に遠慮しながら、部屋の中の家族を気遣ってまでも実家の軒先で肩身も狭そうに吸う姿には、しかし不思議と穏やかさも感じられるのであった。

「うまいか」
そう尋ねてみた。
すると彳育攵也は吸いかけのタバコを片手で口元に当てたまま、もう片方の手に箱を持ってこちらへ差し出しこう言った。
「小里予さんも、吸ってみます?」

…答えられずにいると、
彳育攵也が口からタバコを離し、
顔を近づけてきて、
厚い唇を私の口に重ねた。
呼吸が止まる。
すぐに離れると、
今度は吸いさしを、
私の唇にあてがった。
初めて口に触れる、苦いはずのそれは、例えようもなく甘く、体が溶けて宙に浮かぶかのように思われた。挟む彳育攵也の細長い指を握りながら私は夢中で息を吸い込み…