月曜に奈良地裁に移送されたテツ
移送車から一歩踏み出すと目の前は奈良地裁の裏口だった
しかし左手の敷地外からただならぬ強い目線を感じ思わず振り向く
そこには2月の別れ以来の彼の真っ直ぐな、どこか泣きそうにも見える顔があった
「…ッアー…」移送時は平静に整理手続きの事を考えていたテツだが一瞬で顔と下の半身が熱くなり動揺した
奈良西署の最後の夜の宿直、あの時のあの夜の眼差し、手が触れた時、その瞬間から全ての世界が変わり墜ちていったあの時間…
彼の手も唇も感触をそのまま覚えている、今も生々しくて持て余すくらいに
次の日の移送の朝に突然知らされた大阪拘置所行き
彼も我が事のように怒り心配し、手錠をする時の死界で不安定になったオレを固く握ってくれた
忘れられるわけが無かった、何度も何度も大拘の独りの夜に思い出した
きっと向こうも…そして来てくれたんや…
テツも目線に応えた後に府警に促され地裁入りをした
「奈良に、帰りたい…」