巨大直腸異物により肛門機能廃絶と坐骨神経障害を来たした一例
演題番号 : ME-8-6
石井 改:1
1:横須賀共済病院外科

症例は52歳男性.肛門自慰の性的嗜好歴あり.平成22年12月中旬
午前5時40分ごろに自宅で自慰行為をしていた際に,肛門に挿入した器具が破損し
抜去できなくなり救急要請した.既往歴には特記事項なし.来院時現症で肛門から
両下肢にかけての痺れを認めた.肛門からは自慰行為に使用した器具が5cm程
露出していた.無麻酔下で用手的に抜去を試みたが,摘出は困難であったため
同日緊急入院.全身麻酔下で摘出する方針とした.来院約6時間後に,砕石位で
手術を行い,鉗子で把持して摘出を試みたが器具が崩れてしまうため
ミオームボーラーを用いて肛門から摘出した.摘出標本は10×10×20cm大の
洋梨型のウレタン性物質であった.
術後より排便は認めるものの,排便感覚を認めず,肛門機能廃絶と判断し
異物除去術後5日目に横行結腸人工肛門造設術を施行した.尿道カテーテルを
抜去後も自己排尿が困難であり,間歇的自己導尿管理となった.また
術前より認めていた両下肢の痺れは術後も継続し,運動障害も認め
歩行困難であった.神経伝導速度には異常を認めず,直腸異物による圧迫に伴う
坐骨神経麻痺と診断し,リハビリテーション目的に術後27日で転科となった
神経因性膀胱は改善せず,間歇的自己導尿継続.坐骨神経麻痺に関しては徐々に
改善傾向であったが,寛解までにはならず,装具装着し松葉杖歩行の状態で
術後57日に自宅退院となった.
経肛門的直腸異物は,本邦における報告例も散見され,日常診療でときに遭遇
することがある.今回,我々は巨大直腸異物により肛門機能廃絶と坐骨神経麻痺
を来たした一例を経験した.文献的に検索しえた限りでは,直腸異物により
坐骨神経麻痺を来たした例は認めず,稀な症例と思われ,文献的考察を加え報告する