「有名になれる」信じて
55本に出演した女性
心の傷も撮影データも二度と消えない

「悔しい。『有名になれる』って言葉を信じてしまった」

関東地方に住む20代の女性が手にした茶色のノートには、50本以上の成人向けビデオのタイトルが並ぶ。
女性は成人向けビデオ出演を強要された過去を持つ。
成人向けビデオの配信会社に動画の削除を依頼するため、自身の出演作を書き出した。

出演のきっかけは5年前、東京・渋谷でのスカウトだった。
路上で「モデルにならないか」と声をかけられた。
女性は結婚を機に上京したばかり。
モデル志望だったこともあり、スカウトの言葉に乗ってしまった。

2週間後、プロダクションの社長の面接を受けることになった。
新宿の事務所に行くと、モデルではなく、成人向けビデオへの出演を迫られた。
「有名になるには成人向けビデオから始めよう」「あの女優も昔は成人向けビデオをやっていた」。
男3人に囲まれ、2時間にわたって説得された女性は契約書にサインした。

「洗脳されたみたいになってしまった。撮影内容が過激になってきても、出演を断ることができない心理状態だった」と女性は振り返る。
撮影が嫌で家に閉じこもっても、マネジャーが迎えに来た。泣いて拒否しても、「今さら撮影は中止できない」と相手にされなかった。
出演料は1回3万円ほどだった。

昨年2月ごろ、ネットのニュースで知った支援団体に駆け込んだ。
弁護士を通じて動画の削除を依頼するため出演作を調べると、確認できただけで3年間で55本に上った。
ほとんどの配信会社は動画の削除に応じたが、一部の海外サイトは依頼先が分からず、配信を止められないままだ。

女性は出演を悔いている。
「成人向けビデオに出演したら、(心の)傷も残るし、撮影データも残る。
それは二度と消えない」。
女性はノートに目を落とした。