東日本の時。地方公務員の俺は被災地の応援に派遣された。最初は事務仕事だったが、
途中から御遺体の発見場所と安置所のリストを作る手伝いになった。主として警察、
自衛隊の役割だがどうしても眼に触れてしまうのだ。はじめは辛かったが慣れると
淡々と仕事をこなせるようになってくるのが自分でも怖かった。感情がすり減って
涙も出ないのだ。休みを入れて2週間くらいで地元に帰るとき。現場で指揮を
する自衛官に呼び止められた。「君は妻帯者かね?そうか、それなら帰ったら
奥さんにしっかり癒やしてもらいなさい。ご苦労様でした。」

帰宅して妻の温かく柔らかい体を抱くうちにしだいに感情が戻ってきて、犠牲者や
その家族を思って涙があふれるようになった。女性の体には何か不思議な力が
あるような気がした。不謹慎な奴と言われそうだが、妻には感謝している。
あれ以来、俺たち夫婦やその後出来た子どもたちへの思いが深まったのは確かだ。