それは或淫売宿の入り口だつた。
二十歳の彼は扉脇の窓から新らしい女を探してゐた。
女学生風、人妻風、女会社員風、芸姑風、……
 そのうちに日の暮は迫り出した。
しかし彼は熱心に女の顔を睨みつづけた。
そこに並んでゐるのは女といふよりも寧ろ世紀末それ自身だつた。
幼女、痩せ女、老婆、肥満体、不具者、石女、……
 彼は薄暗がりと戦ひながら、彼等の特徴を数へて行つた。
が、女の顔はおのづからもの憂い影の中に沈みはじめた。
彼はとうとう根気も尽き、窓の前を通り過ぎようとした。
すると傘のない電燈が一つ、丁度彼の頭の上に突然ぽかりと火をともした。
彼は窓の前に佇んだまま、女の間に動いてゐる店員や客を見下した。
彼等は妙に小さかつた。のみならず如何にも見すぼらしかつた。
「人生は一行のボオドレエルにも若かない。」
 彼は暫く梯子の上からかう云ふ彼等を見渡してゐた。……