「……ホック、留め金のところが完全に壊れてた。直すのも無理そう……」

「えっと、ごめんねミズキ……今度の休日、お昼奢るから!」

申し訳なさそうに頭を下げるトモミ。本人に悪気がなかっただけに、怒っても仕方がない。
恐らく無理に小さめのサイズを着けていたせいで限界を迎えたのだろう。
もはや使い物にならなくなったブラジャーは、私の鞄の奥にねじ込まれている。
即ち、今の私は正真正銘のノーブラだ。

「うぅ……今日は一日これで過ごすしかないなんて……トモミ、えっと、目立ってないよね……?」

「だ、大丈夫だよ! 多分!」

慌ててトモミがフォローするが、恐らく単なる気休めだろう。
明らかに普段より二回りほど大きくなっている私の胸に、周囲(特に男子)の視線が突き刺さっているのが見なくても分かる。

だが、嘆いても一日これで乗り越えるしかない事態は変わらない。私にできることは、これ以上恥ずかしいハプニングに見舞われないように気を付けるだけだ。



1時間目は、数学の時間だ。

「……つまり、この式を逆フーリエ変換して得られる斉次積分方程式に関して、まずは特解を求めるわけだが……よし、今日は10日だから出席番号10番の沢渡、解いてみろ」

「……はい」

正直、日付が私の出席番号と同じだった時点で嫌な予感はしていた。
幸いにも数学は苦手ではないので、問題自体は解ける。だが、正直今の私の状態を考えると、前に出て問題を解くだけでも目立つ行為だった。

黒板の方に向かう時点で、両側の机からちらちらと投げかけられる視線を感じ、ごくりと唾を呑む音が聞こえてくる。

だが黒板に向かってしまえば男子から見えるのは私の背中だけだ。私は黒板にチョークを走らせ、問題を解いていく。