>>546
―― よし今だっ!
(直前まで身動ぎひとつしない少年が、双眼鏡の中で両腕を差し向けたまま獣と重なったかに見えた瞬間のこと)
(突然両腕が紐つきの重りのように飛んで、獣の首に正確に巻きつくと)
狙い通りに!
(少年本体は自ら飛び上がり、獣が通り過ぎるその上で落葉樹の太枝を超えて着地する)
(既に幾多の脅威を乗り越えて、迷宮探索は今に至っているが)
(それでもワイヤーで伸びる両腕の鍛錬を怠ける事は無い、
 タイミングとコントロールの精度は、レグが使う度に上がっていく)
・・・・・・・・・
(不思議な伸びる両腕を首に巻きつけられた獣は、
 落葉樹の向こうへ勢い余って走り抜けると、そこで双眼鏡の中から消える)
(実際には落葉樹の先でレグが確認していた小さな崖へと足を滑らせ、転落して、
 そこへ首吊り状態になって息絶えるまで僅か数分の出来事であった―― )

よっ……と、他に魔物の仲間は――
(一頭の獣を倒したとて、少年はその場で気を抜く事はしない)
(ダンジョンも深層まで潜れば、魔物との遭遇が連続で二度・三度重なる事をレグはこれまでの経験から知っている)
(先ほどの獣から伸びる腕を緩めると、崖の向こうで獣がずり落ちる音を聞きながらも中腰で身構えて)
(周囲の茂みから奥の土地まで、しゅるるる…と腕を回収しながら、全周囲に監視の眼を光らせる。と……)

!! いま何か、あそこで光った……?
(小高い岩山のある方角から、キラッとした光の反射があったのをレグは確かに認識する)
先ほどの獣の仲間ではない……な、だいぶ遠い。
(現時点で魔物や脅威が確認されたわけではない。が……)
(この雪景色の一瞬の晴れ間に見えた光は、あきらかに人工物か人為的な反射光だとわかる)
あの方角、か……何かあるかもしれない。
(人為的に光った場所は、こちらが気付いたとわかれば二度と位置を示してくれるものではない)
(手早く食事を済ませると、先ほどの測定を頼りに岩山の方角へ向かって、曲がりくねった道を歩き始めた)

誰か他のダンジョン探検家がいるのだろうか?
それとも魔物から監視を受けているのか……監視されたままとなると、厄介だな。
(こちらの隙をついて囲まれる可能性もあるからだ)
そうなる前に先手必勝、こちらから調べに行ってやる――

(岩山方向からの光が何によるものか判らないうちは、直接そこへ向かって対象を警戒させる愚を犯したりはしない)
(一点を目指さず見つめず、時には迂回しながら、
 しかしゆっくりだが確実に岩山へ近づく歩みで、レグはこの雪原の階層を横断しつつある)


【なかなか現実との差は埋められない問題だ。でも恥ずかしくさせたり献身を知るには、よい方法ではある…】
【まさかあの分泌物のようなものを……!】
【わかった、ただし食材はなるべ無駄にしないで僕の分の材料も残しておいておくれ。】

【むむっ、帰るのが少し遅れてこんな時間になった、済まない。】
【今夜は何時ごろのタイムリミットが良いだろうか?】
【まぁいつもの21時スタートまで遅くは頑張らなくてもいいとは思うが。】