ふむふむ……まさしくそれは温泉の特徴。
(ナナチの歩き始めた小道は、アジトの空洞からの光が届かなくっていく)
(唯一、岩山のアジトからのみ繋がっているようで、
もしナナチと出逢えなかったら温泉を知ることもなくあの雪原をさ迷い歩き続けることになる)
身体も洗えるのか、本当に感謝だな……ナナチと逢えて良かった……
(岩山の巣穴だけでは説明のつかないほど荒涼とした、この雪原の階層で、
ナナチが住んでいける理由が、レグにはようやくわかった)
(道が暗いというのもあるが、案内役のナナチの尻尾を両手に包んで)
(感謝の意味を込めて拝むようにさすって、尻尾の先を顔に持ってきて頬擦りする)
泡が出る石、たぶんそれは石鹸のようなものだな。
炭酸塩の鉱物が火山性のガスのうち二酸化炭素と混ざって、石鹸の原料になる。
石鹸の原料と地中に埋もれた穀物の殻が混ざって冷えた固形物、それが天然の石鹸だ。
(機械人形として造られたレグには技術と膨大なデータが秘められているが、
石鹸そのものを知らないナナチが聞いて理解するのはおそらく難しい説明となる)
いや、石鹸は、食べるものじゃないな……
(とりあえず石鹸と化したものをカジってみたナナチが、泡を吹いているところを想像してしまうレグだが)
しかしアジトと繋がる温泉に入っていて、石鹸は使っていないとは……
(どうやって身体を洗っているのかと考える間もなく目の前が明るくなり、
匂いを嗅ぎ分けるのが上手なレグの顔と鼻に、温泉とわかる匂いの含まれた湯気が当たり始める)
すんすん……おお、これは間違いなく温泉!
(ナナチに連れられて、明るい場所に出たレグは感動に立ち尽くす)
(周囲を見渡せば、奥の間欠泉からは高熱の湯気がもうもうと噴き出し、それに雪解け水が流れ込んでいる)
なるほどあそこからここまでは適度な温度になっている……
(湯溜まりに手をつけたレグにはそれが程よい熱さとなっているのがわかった)
ナナチの言っていた湯が流れてる所はこっちか、身体が洗えるぞ……
(完全な温泉の環境にわくわくしたレグは、マントを脱いで畳むと)
ありがとうナナチ、どうやら必要なものも揃っているようだ。
僕はこれからひと風呂浴びさせてもらって……上がったら、またさっきの道を戻ってアジトの中央に戻る。
(一旦入り口まで下がって、濡れないようにマントを置くとナナチにお礼を伝えて)
(いそいそとズボンを脱ぎ始め……)
【ざっと調べてみたが、まず石鹸は重曹から作れるな。苛性ソーダがあればもっと簡単に作れるようだが…】
【で、問題の重曹だが温泉には重曹水というのもあるし、鉱山ならトロナという天然の白い鉱石がある。】
(トロナ鉱石からは地下水で炭酸ナトリウム(かんすい)が溶け出して、それに二酸化炭素を加えると重曹になる)
【手作り石鹸のレシピには重曹に水と米ぬかを混ぜれば良いとあったから……】
【かなり無理はあるが、偶然が重なれば温泉と鉱山と米ぬかがあれば石鹸は作れるぞ。】
【なんだったらナナチが重曹の出来た所に穀物の殻とか米の研ぎ汁を捨てたっていいんだ。】
【僕は脱衣に入るから、ナナチは一旦退場だな。もちろん後から飛び込んでくるのを楽しみにしているが。】
【長文でお待たせした…休憩時間はどうする? 僕はいつでもいいぞ。】