ふぅっ……。
(自分を狙った痴漢が背後に近寄ったことは気づかず、何か背後がもぞもぞと動いている程度の認識しかなく)
(こんなことなら、列車を一本待って女性専用車両に乗ればよかったなと考えながら)
(窓越しの闇に沈む街並みに、見慣れた看板や建物が徐々に増え始めたのを見て)
(降りる駅が近づいて、この朝のラッシュのような混雑から開放されることに安堵の息を吐く)
んっ!?
(精神的にも肉体的にも疲れて音楽を聞きながらぼんやりとしていたが、タイトスカート越しに硬い感触の何かがコツコツと当たるのを感じて)
(最初は混雑した車内故に、不可抗力の偶然だと思い込もうとしていた)
えっ??
(硬い何かの感触が、柔らかな明らかに指と思える感触に変化して少しずつ力が込められて来て)
(混乱におそらく背後の痴漢にしか聞こえないくらいの小さな声を上げ、はっきりと痴漢と認識して眉を顰める)
ん、くぅ!
(手首が返り、掌がお尻に触れて来ると、嫌悪感と不快感が背筋をゾクッっと震わせる)
(体を捻りたい気分に襲われるが、そんな余裕は全く無く、腕を背後に回し痴漢の手を捕らえようとするものの)
(もう少しで触れられる寸前になると、痴漢の手はお尻の下へと降り持ち上げるように蠢いて届かない)
嫌っ! 止めなさい!
(高校時代に痴漢を撃退した時は、自分で捕まえることは出来なかったが、声を上げたことで近くにいた大学生が気づき)
(中年の小太りの痴漢常習者を捕まえてくれたことを思い出す)
(痴漢行為を止めるように嘆願するのではなく、鋭い命令調の口調で声を上げたが、不幸にも周りは音楽に没頭している人たちばかりで気づかれず)
(行為はエスカレートしてショーツにラインをなぞるように下へと向かい、お尻の割れ目に埋まりこんで揉みほぐすように動きに変わる)
んんっ、んっ。
(どうしたら良いか次のいい案は浮かばず、何度も相手の手を虚しく追い掛けることを続けながら)
(嫌悪感はさらに増して背筋に悪寒が走るが、痴漢の指が谷間を前へと動こうとするときつく太腿を合わせて力を込めて)
(それ以上前に手が滑り込んでくるのを防ぎながら、首を巡らして相手を確認しようとするがそれも叶わず)
(何度もお尻を揉まれ弄られている間に、嫌悪や不快だけでない感覚が微かに生まれて惑乱してしまう)
【こちらこそよろしくお願いします】
【痴漢行為は絶頂するまで至らぬ間に降りる駅に着き逃れられるのを想定していますが、それで構いませんか?】