【背景】
槐文帝の御代、天地は混迷を極めていた。
打ち続く戦乱と天災、凶作に伴う飢饉。男達は兵役に取られ、田畑は荒れるばかり。
百姓は土地を捨て、難民となって市城へなだれ込み、都市の治安は悪化する一方だった。
官吏は権力闘争と私腹を肥やす事に専心し、王候貴族は己の野心を満たさんと、愚劣な争乱に明け暮れていた。

乱れた世には無法が罷り通る。お尋ね者、あぶれ者、脱走兵。彼らは自らを義勇軍と称し、徒党を結して街道に満ち充ちた。
義の旗を掲げて、隊商や金持ちの邸宅、小領主の舘を襲い、奪い、焼き尽くす。その様は山賊野党と何ら変わりなかった。


とある城市の酒家。
一人の侠客が杯を煽る。武の心得があると見え、美酒に舌鼓を打つ間も携えた剣を手放さない。
杯を重ねる内に興が乗って来たのだろう、墨を擦ると筆を取り、店の壁になにやら書き付け始めた。
酒脱喧騒厘 独孤傾酌
街表行人絶 故郷思事千里
旅人何所去 百酔一夢如

そこへ数人の兵士が通り掛かった。正規軍ではない。みすぼらしい甲衣を付けた義勇兵だ。
皆酒に酔って赤い顔をしている。兵士の一人が聞こえよがしに言った。
「おい見ろ、上酒をひっかけながら詩なぞ捻りやがって。この御時世に暢気なもんだ」
「流れの半端者のくせに良いご身分じゃねえか。俺達は国を憂いて戦ってるってのによ」
「武侠なんて気取った所で、所詮は戦が怖いだけの臆病者さ。腰のダンビラは飾りだろう」

侠客は苦々しげに背を向けると、杯を煽り続けた。兵士どもがまた言う。
「……ほらな。売られた喧嘩も買えない臆病モンさ」
「あんな奴にどんな詩が書けるのか、どれ、ちょっと見てやろう」
「……ぷっ。くははっ、なんだありゃ。あれで詩のつもりか」

調子に乗った三下どもはだんまりを決め込む男の顔を覗き混み、よせばいいのに目を剥いて挑発する。
酔漢もまた単純な男だ。頭に血が昇り、兵士の嘲りが終わらない内に相手の鼻先を切り付けていた。
「……もう一辺減らず口を叩いてみろ。次は舌を切り刻んでやる」
「へっ。ようやくお目覚めかい。酔い覚ましに丁度いいや、遊んでやるよ!」
「おい、何だ何だ」
「喧嘩だ喧嘩!相手はごろつきの義勇兵だぜ、やっちまえ!」
「あの詩人気取りめ、俺の女房寝取りやがって!ぶっ転がしてやる!」
「おい誰か役人を呼んでこい!その間に俺もひと暴れするぜ!」
それまで傍観していた野次馬が対局の場に雪崩れ込むと、忽ちの内に酒場は騒乱の渦に包まれた。
亭吏の来るまでに死人が出ないと言う保証は無さそうだ。それに来たところで事態を収拾できるとは思えない。
この騒ぎに行き会わせたあなたは…………

【侠客側に味方する】
【義勇兵側に味方する】
※間に入って宥める場合、アクションを起こした相手に味方したとみなします。