玉座の上に、影を抱いて座っていた。
どれだけ思案しても、目の前には何も浮かんでこない。私はとっくに時間的な感覚を失っていたが、
手に触れるもの、肌で感じるもの、心を揺さぶるものを感知する感覚も、次第におぼつかなくなり始めていた。
そんな私にとってはこの場に誰が訪れようと、どうでも良いことだった。
──つまり、君がここにいても苦しからず、という事だが。
私は目を閉じていたが、それを開ける気力さえなかった。
目を開いても、解れた刺繍に包まれた膝と、埃っぽいがらんとした広間があるだけなのだから。
あと数刻もすれば、ここは喧喧とした論議に浸される。
大臣達は、言葉を重ねれば状況を打開できると思っている。
それかもしかしたら、現実から目を背けるために論議の世界に逃避しているようにしか思えなかった。
賊軍は、ひたひたと着実に近付いていた。それに対して天兵は悉く無力であった。
五つの関は為す術もなく破られ、朝廷の期待を一身に背負って出征した鬼才・王元達の剣も折れた。
まさに昨日の朝議は紛糾の果てに宰相の中書門下・黒曜月を征討使に指名したのだが、
夕刻になってあの臆病者が出奔したとの報告が届けられた。
追い詰められた今になって、京師の市民に退避勧告の布告が出された。
城下は蜂の巣を突いたような大騒ぎになっている。これまで侵攻の危険はない、安全だ、布告に注目して
冷静に行動せよと言われてきた市民は、何を信じれば良いのか分からなくなっている。
彼らに力はなく、彼らを守るべき朝廷の中にも、誰として状況を打開できる者はいなかった。