天気予報は大外れ、車窓から見える外の景色は急に降り出した雨で、薄く煙っているかのよう。
お気に入りのマキシワンピも雨に濡れ、ベージュ色の生地を肌に張り付け、ボディラインを際立たせている。
中でも目を引くのは、日本人離れしたボリューム感のバスト。
はち切れんばかりの大きさのソレは、まるで服の下に何も身に着けていないかのように、ありのままの見事な膨らみを露わにしており……

(こんな日に限って……下着を盗まれるだなんて……)

最悪だわ、と内心で毒づきながら、さり気なく右腕で乳房をかばい、周囲の視線から逃れるようにドア横の隅に立つ。
見られること、それ自体はかつての経験から然程抵抗は無いものの、やはり「あるべきものがない」というのは心もとない。
まして今の自分は、見られるための仕事をしている訳では無いのだし、ここは電車の中という公共の場なのだし。

(今日は、出ませんように……アナタ、ワタシを守ってね……)

手すりを掴む左手、その薬指に光る銀色の指輪に、今は海外出張中の夫の面影を見て、彼女は祈る。
肩に掛けたトートバッグの中には、スイムキャップとゴーグル、それに競泳水着。
それらを身に着け、午前中たっぷり2時間泳いできた彼女の身体は、シャワーを浴びてもなお落としきれない、仄かな塩素臭に包まれている。
この時間、本来なら空いている筈の車内は――不意の雨のせいだろうか――いつもよりも乗客の数が多く。
彼女の放つカルキの匂いに、気づけるぐらい近くにも数名、乗客の姿がある。

(こんな格好してたら……誘ってるって、思われちゃうかも……)

濡れた服が冷房の風を受け、ぶるっと小さく彼女は身震いをした。
その拍子に右腕に力が籠り、かばうはずのバストを持ち上げ、重量感を強調するように揺らせる。
マニアックともいえる装いに、図らずもなってしまった彼女の姿は、かつて出演したビデオ作品の登場人物のよう。
そのことを思い出し、恥ずかしさで顔が熱くなる。
雨に濡れたノーブラ巨乳美女を、電車内でよってたかって痴漢して、というコンセプトの作品。
中古品を扱うアダルトショップへ行けば、きっと今でも手に入る筈……。
あの作品なら、そろそろ誰かの手がこちらの尻に伸びてきて……。

水泳教室の帰り道。
かつてそのサイズで男たちの妄想を受け止め続けた爆乳を守る、ブラジャーをロッカーで盗まれた元グラビアアイドルにして元AV女優。
今は人妻にして一児の母である彼女、渡良瀬美乃梨は。
ノーブラの羞恥に震えながら。
そして、最近彼女の周囲に出没する痴漢たちの恐怖に怯えながら。
早く目的の駅についてほしいと、一心に願い続けていた……・。

【置きレス待機します】