(そして大会が始まる直前、千歳は選手兼賞品として紹介された)
(極めて異例の処置だったらしく、紹介された時は会場がかなりざわついた)
……あ、あはは。
(当の千歳もこういった雰囲気に慣れていないから、ちょっと引きつった笑いで固まっていたりする)
(本人は知らないけど、千歳の外見の可愛さは認められたようで、そこここでため息のような声が聞こえていた)
(セレモニーが終わり、そして大会が始まった)
(それぞれの選手は知らない千歳でも、皆のレベルがかなり高いことは分かった)
(先日のダンジョンで遭遇したならず者など、何人が束になっても敵わないだろう)
……みんな、強い…
(その現実は、千歳にかなりの不安となっていた)
(ついこの間まで素人だった自分が、この中から勝ち残ってきた男と戦えるのか)
(そんなことを堂々巡りに考えていたら、いつの間にか千歳の対戦相手は決まっていた)
(試合場で千歳の前に立ったのは、千歳に賞品の札を最初に貼った筋骨隆々の男)
(大きくて丈夫そうな鎧を着け、手には千歳の背丈ほどもありそうな剣を持っている)
(緊張気味に立つ千歳との体格の差は、大人と子供どころか、巨人と人間ほどもありそうだった)
か、か勝てる、かなぁ…
(緊張と恐怖が混ざった表情で、微かに震える足で踏ん張って、逃げたいのを必死にこらえている)
(少しでも気を抜いたら腰が抜けてしまいそうだった)
(グリードと呼ばれた戦士が構える)
(千歳も勇気を振り絞って扇を構える)
(視線を交わしながら、グリードが余裕の表情で話しかけてきた)
あ、あはは…き、綺麗に持って帰るんなら、その剣は使っちゃダメだと思うけど…
(そして開始の合図が鳴り、グリードが踏み込みながら剣を振りかぶってきた)
っ…っ…!
(叔父さんの言うとおりに振り下ろしてくる剣を、千歳はステップでかわして扇で一撃を入れる)
(ダメージがあったようには見えないけど、叔父さんの指示があれば冷静に戦えそうだった)
(千歳をなめているのか、グリードはモーションが大きいため、意外にかわしやすい)
やあぁっ!
(かわして出来た隙を突いて、扇や蹴りを次々に見舞っていく)
(千歳は、自分でも出来過ぎにも見えるくらい対等以上に戦えていた)
(でもしばらくして、千歳の攻撃に変化が出てきていた)
(さっきまでなら蹴りをいれていたチャンスで、千歳は攻撃力の低いヒップアタックを使うようになった)
てぇい!
(いちおう攻撃なのだけど、柔らかいお尻での攻撃は殆どダメージらしいダメージは与えられないだろう)
(あまりにも優勢に戦えていたからか、油断からくる緩みがそうさせてしまったのかもしれない)