……これで良し、と。
我ながら、こんな事の為に新たな魔法を生み出すなんて……まぁ良いか、別に学会に発表する訳じゃないし。
(水晶玉に浮かぶ文字……私の思念で書かれた、私自身のプロフィールを眺めて、私は部屋で1人呟いた)
(異世界とのコンタクトに成功したのは、魔法研究としてはもしかしたらスゴイ事なのかもしれないけれど……別に名声を求めてこの魔法を生み出した訳ではない)
(日頃溜まって、私の中で爆発寸前だったこの好奇心を満たしたい……その為に、私はこの魔法を生み出して、異世界の人間達にコンタクトをとったのだ)
(これを世間に公表するのは、せめて私が存分に楽しんだ後にする事にしよう……心の中でそう決めて、私は水晶玉を机の上へと置いてから、部屋の隅のベッドにごろんと寝転んだ)

……別世界の人達……名前の無い誰か……名無しさんって言うのかしら。
彼等からしてみれば、私はだいぶ珍妙な者に見えるのでしょうけれど……果たして私と遊んでくれるかしら。
(期待と不安を胸に抱きながら、私はそのまま目を閉じた……そして一つ思いつく、魔法に制限を掛けよう)
(私は魔法で空を飛ぶ事も出来るし、姿を消す事だって出来るけれど……そんな回避手段があったら、露出調教なんて面白くも無い)
(自分でも解けないように念入りに、それでも永遠に解けないと困るので効果期間を一月と定めて……私は自らに、“魔法の制限”の呪いを掛ける)

自然に満ちるマナよ、我の内より生ずるオドよ、我は願い訴える、これより一月、我が魔力の8割を封じたまえ……。
(呪文が成立し、自らの内に満ちる魔力が……お湯を張ったお風呂の栓を抜いたように、どんどん失われていくのを感じる)
(それは決して失われた訳ではなく、あくまで封じられているに過ぎないのだが……これで、私は三流魔法使いと同程度か、それ以下の存在へとなり果てた訳だ)
(もう空を飛ぶ事も、姿を消す事も、……例えば裸を見られたとして、その記憶を消す事だって出来ない、もう後戻りは出来ないのだ、だというのに……)

……なんだか、身体が軽くなったみたい。
(力を失った筈の身体が軽い、とんでもない事をしてしまっている筈なのに、心はウキウキしてやまない)
(それくらいに、弱々しい自分が新鮮で、そんな自分に降り掛かる指示がどんなものか、楽しみで仕方ない)
相手にされないっていう可能性もあるけど……とはいえ、いきなりとんでもない事を要求されても困るかな。
(ベッドの上に転がっていた枕を抱きしめて、天井を見上げて、こんな夢見る乙女のような気持ちは、きっと初めてだろう……)

【とりあえずのプロローグも】