>>854
(私の人生の中でも、それは最大級……いや、文句なく最大の奇妙な出来事だと言っていい)
(ある朝、17年間手塩にかけて育ててきた息子が、娘になっていた)
(誰に言ったって、「何を言っているんだ」としか言われないだろうが、事実は事実だ)
(なんとか治療しようといろいろ調べたし、いろいろ試したが、結論は一つ)
(――お手上げ、ということだ)
(時間もお金もかなり掛けたが、治療法は見つからず)
(もう手の尽くしようがない、と判断した私達は、息子、いや、娘の響に提案した)
(そのままで生きていかないか、と……)

(そして、今日がその道を歩む最初の日)
(――が、いきなり頓挫しかかっている)
(女の子の身だしなみが、これほどまでに時間のかかるものとは)
(いや、妻も昔デートの時はこのくらい時間を掛けていたっけ……?)

はっ、はっ、はあっ、ぜっ、ぜえ、ぜえっ……!!
(駅の階段を、全力で走る)
(――ただし、それは響についていくことも出来ないくらいのノロノロ運転だ)
(運動不足を痛感してしまう……)
わ、解ってる、もうちょっと、待って……!!
(響の声に、息も絶え絶えに応え、なんとか視線を上げて……)
――ひ、響! ちょっと、スカー、と、スカート……!!
(かすれ声で呼びかけるが、きっと聞こえていないだろう)
(新品の下着に包まれた、丸いお尻が丸見えになっている……!!)
(なんとか追いすがり、カバンで周囲のサラリーマンの視線を遮って)
(やっとこさ、満員電車に飛び乗った)
ひい、ひぃ、ふぅ、はぁ……
(荒い息を整えながら、すぐ前に居るはずの響の姿を探す)
大丈夫かい、響……乗れたかな……?

【ありがとうございます、大丈夫ですよ】
【では、これからよろしくお願いします】