(その中に連なる奥ゆかしき古風な建築の屋敷が、うつろう靄の上に浮かぶようにその壮麗な様式を湛えていた)
(人と妖の争いが始まってから幾百でも収まらなくなった古来より、人界を守護する退魔師の名家の総本山)
(霊峰の中枢に本家、その周囲に分家が広く家々を構える配置なのだが)
(今、かつての彼が戸を叩いた場所は、特に霧深く、かと言って中枢からは際に置かれた)
(そんな微妙な位置の屋敷であった)
――おや、もう来たのか。
早かったじゃあないか、正美。
連絡をしてからもう暫く掛かると思っていたからな、しばし待て。
(人ならざる式に案内され襖の奥へと踏み込んでいけば、そこに彼がいた)
(長身中肉中背、少し痩けた頬に少し癖のついた短い黒髪)
(ギラついた、と言うに相応しい眼差しが、一度だけ彼女を真っ向から見据えて、引いた)
(今は彼女となった正美へ、本家へと出された依頼を斡旋する、分家の現当主であった)
(本人の実力よりも、組織運営の面で評価され本家にも一目置かれた人物だ)
(かつての正美の先達ながら退魔以外の案件で外の世界へ足を踏み入れていた、いわば畑違いの人物)
(こうやって関わることになるとは、かつての正美なら考えもしなかったであろう相手だった)
……済まないな、待たせた。
夜分に来いとは言っておいたが、見計らったように余計な仕事がゴロゴロと舞い込んでくる。
本家筋にも、もう少し管理という言葉を見直してもらいたいものだ。
お前や私が賄うには軽すぎる依頼ばかり任せおって。
(地位に見合わない中間管理職のような愚痴がこぼれてくる)
(完全に離された正美ほどでないにせよ、彼もまたはっきり言って跡目に手の出せない端役なのだ)
(組織という大きな視点からならずっと上の方にいても、トップと比べて見た位置が全て)
(そういう世界の話なのだ)
ふふ……お前にはもう縁遠い話であったか。
済まんな、少し……そう、少しばかりはしゃいでいたのだ。許せよ。
さて、そろそろ奥に行くか。
褥の準備はとうに出来ている。
今夜は、泊まっていけ。
【このようにしてみました】
【南の姓を名乗っていいか不明であったのでそれらしくしてしまいました、お許しを】