かつて、北米にある殺人鬼が居た。彼は電気椅子により天に召されるまでの間
歪んだ死生感のもとに、じつに150人近い人々を殺害したという。
死を前にしても彼の歪んだ思想が遂に矯められることはなかった。
むしろ、彼のその論はマスコミを通じ、アメリカ中に広まってしまった。
いつしか、彼を崇める人々が現れた。
彼ら彼女らは殺人教団を作り、世界に"魂の救済"を広めんとする彼の後継者となった。


魔弾の射手カリン・レーベス
彼女に今回秘密裏に依頼を持ち込んだのはある企業の社長である。
いわく最近ダミー団体を通じてしつこく彼の会社に活動資金の寄付を求め続けた
かの教団がとうとう彼の令嬢を誘拐し殺害するに至ったとのこと。

官憲に捕縛を任せ、裁きを受けさせるなどぬるすぎる。
彼女の恨みを晴らすため、教祖の心臓に銃弾をお見舞いしてほしい。

その依頼を受け、北米の荒野にある彼らの本拠地に侵入し
難なく狙撃を成功させたカリンであったが不運ゆえか、あるいはその若さから来る甘さゆえか
当初計画していた逃亡ルートの確保に失敗。
自らもまた、囚われの身となったのである。

尤も、彼女を待ち受けていたのはこれまで彼女が見てきたような
命のやり取りの世界で虜囚が一般的に辿る運命……拷問ではなかった。

あらゆる武器や潜入道具、あるいは自害用のアイテムを取り上げられ裸に剥かれこそしたものの
三度の美食を与えられ、監視カメラ付きではあったもののホテルの一室を思わせるような
快適な部屋で過ごすことを許されたのである。
そこにはシャワーもあったし、トイレもあった。
彼女に命じられたこと、それは自らの体を清潔に保つことだけであった。

そして、軟禁三日目、時計はないが恐らく体内時計が正しければ今は午後11時半過ぎぐらいだろうか。
両手をロープで後ろに縛られ、若い女が従えた数人の男達に左右から囲まれながら部屋を出た彼女は緑色のリノリウムの廊下を歩いてゆく。
白人の成人女性としては多少幼さを見せるその体を包むのは日本の秋葉原の路地裏でしばしば見かけられるような膝上丈の黒いエプロンドレスであった。