(座面に仕掛けられた体重センサーを元に算定した七瀬の致死出血量。
 その数字を目指して先ほどまでぷしゅん、ぷしゅん、じゅるっ と数十秒のあいだ
 不愉快な音を立てて腹大動脈をねぶり続けていた採血機構は
 己がノルマの達成を確認したのだろうかゆっくりとその動きを止める。)

『はい、ナナセさん死亡、もういいよおやすみ。』
(さんざん人を強姦し、蹂躙し、そして略奪した装置からすら冷たくそう切り捨てられ
 誰も居ない闇の世界の更に奥に向かって突き飛ばされたかのような気がした。)


「……おねがい、みす、す……。 」
(七瀬は急激な失血と全身を縦に貫く痛み、それに明確に60秒後と予告された"開花"という単語から来る恐怖に
 まるで女児のように両目から涙を流しながらただ、ただ、震えていた。
 苦悩の梨を飲み込んだまま恐怖に震える股間、その真下に位置する華の玉座の中心に
 小さく開けられた穴を通って流れ落ちる真紅の放物線。

「ん……。」
(尤も、恐怖に流した涙も、末期の尿も、七瀬の唇に含まれる湿り気と同じように、もはやたいした量ではない。
 彼女の体から生命力という概念、そのものが消えうせようとしていた。)

「!!」
(そして、そんな七瀬の髪を不意にくしゃりと撫でる懐かしく、暖かい感覚……美鈴だ!願いが通じたのだ。

『七瀬……』 小さく聞こえてくる美鈴の声。
視覚に続いて七瀬の聴覚も、既にほとんどの機能を停止していたが、それでも耳元で呟いてくれたその声は
確かに美鈴のもので、そして、気を抜けばいつでも消えかけようとする自我をあと数秒、"開花"の瞬間まで
何とか繋ぎ止める作業を続ける上でとても有難いものだった。
続けて、髪だけでなく、体全体が温かく抱きしめられてゆく感覚を覚え……続けて、不意に唇が柔らかい他者の粘膜に包まれる感覚。)

「だめ、だよ……そんなの、きたないよ?」
(そんな七瀬の制止にも関わらず、美鈴はずっと唇を離さずに居てくれた。
 たぶん、今の彼女の口中には七瀬の血液、消化液、腸液に、串刺し中のショック死を防ぐために過剰に投与された鎮痛ゼリー。
 七瀬の中に残ったわずかなものが全てどろどろに溶け混じった味が送り込まれているはずだ。
 正直、常人なら一瞬唇を合わせただけですぐに突き離し洗面台に直行するような酷い味だろうが彼女はそれを拒むことなく受け入れてくれた。
 
 そういえばさっきの制止の台詞、いつかも言ったような気がする。あの時も彼女は七瀬の全てを受け入れてくれた。
 自分の汚辱を含めた全てを一度といわず二度までも受け入れ、味わってくれた人が近くにいる、そんな自分がすごく幸せな人間のような気がした。)

 だから……。
 
 大丈夫、私はもう怖くないよ?
 涙が止まったのはきっと体内の可処分水分量がなくなったから……それだけじゃないはず。


(七瀬の右肩から1メートルほど伸びるメシベ、その上部に位置する複数のノズルからつい先ほど同時に八方向に放たれた真っ赤な花びら。
 それは部屋の中央で花瓶を象るように硬く抱き合った二人の少女を優しく包むように咲き乱れ、長町七瀬という美少女探偵の物語、そのフィナーレを彩った。
 数分後ノズルが忌々しい『槍』の中にチャージしていた生贄の体液を全て使い果たし、機能を停止したとき
 七瀬はもう家族の待っている遠いところに逝っていたが
 そんな彼女が遺していった透けるように白い肌の美しい顔に浮かぶ最期の表情はこの数時間で一番の微笑みに満ちていた。

【お疲れ様です。今レスを以ってこのミッションでの七瀬退場となります。】
【美鈴様、この後エピローグか事後ロールをされる予定はございますか?】
【無ければ〆としたいのですがいかがでしょうか。】