リセナの呟きはあまりに小さく、その言葉が聞こえることはなかったが、楽しそうに何かをつぶやくその表情に、ローザはなにやら不吉なものを感じずにはいられなかった。
(そして、ローザの抗議の声に、いきなりその顔を耳元に近づけてくる。その可憐な動作は、まるで愛しい姉にキスをせがむ少女のようでもあった)
『糞尿に塗れて逝くのがお好みなのでしょうか。先祖伝来のドレスアーマーのスカートを汚しながら……?』
(だが、その可憐な唇からでた、不愉快な言葉にローザは色をなした)
な、何を言っているのです!?この私が!ふっ……
(動揺と怒りの為、会話の内容を民衆に聞こえないよう声量を落とすのに、いくぶんかの努力を必要とした)
ふ……尿に、塗れて、ですって?
人を、仮にも一国の姫を侮るのもいい加減になさったら?
このわたくしが、ローザライン・フォン・ブルーメンバッハが恐怖に粗相をすると、本気で思っているのですか?
(リセナを睨み付けて椅子の傍らに傲然と立つその姿は、とても敗北者のそれとは思えぬモノだった)
(傲然と胸を張り、リセナを見つめているその態度に、『今になって命が惜しくなった』などと思うものはいないであろう)