(渚の問いに、浅間は逡巡する事もなく自分だと答えた)
(しかし本人は、何も悪い事をしたとは思っていないらしい)
だ、だって、これ、これって誘か…
(誘拐だと言おうとした渚の声を、浅間は全く聞いていない)
(入ってきた時と同じ表情で、淡々と話し続けている)
え…な、なに、言ってるの…?
(でもその内容は、渚が理解できるものではなかった)
ね、ねえ、あ、あの時のこと言って…って…そ、それだけであたしを…?
(話の内容も、そして浅間の行動も渚の理解できる範疇を超えていた)

(理解できない話に呆然としている渚を見て、浅間が苦笑した)
(どうやら、渚の状況を紅茶が飲めなくて迷っているものと捉えているようだ)
…な、なに言って…ちょ、ちょっと、ち、近づかないで…!
(カップを持って近づいてくる浅間に、渚はもがきながら首を振る)
(勿論、身動きできない渚が逃げれるはずもなく、浅間は横に立つと首を振る渚の顎を掴んだ)
ふ、ぐっ…や…やめっ…!!
(湯気の立つティーカップを口元に近づけ、浅間は楽しげに笑いかけてくる)
や、やめてっ!おねが…んぐ、ぁっ…
(無理矢理唇に押し付けられたティーカップが傾けられ、湯気の立つ紅茶が嫌がる渚の口の中へと流し込まれた)
あっっっぐぎいいぃいぃい!!!
(次の瞬間、渚がくぐもった悲鳴を上げて紅茶を吐き出した)
(元々猫舌の渚が熱い紅茶を飲める筈もなく、縛られた椅子の上で熱さのあまり首を振っている)
ひゃ、ぐっ…ひゃひ、ひっ、ひっ…!
(勢いよく入った紅茶に、口の中だけでなく喉まで火傷した渚は、吐き出した紅茶でランニングウェアを汚しながら呻いている)