(ドアをノックしてみるも反応が無い)
(ドアノブを捻ってみると、回りはするが鍵がかかっているのか開かない)
(そこで優璃は新聞受けの所から中を覗いてみることにする)
(パカンと指で開きながら屈んで中を見る優璃)
(入ってきたのは夕陽で照らされた部屋のようだ)
(どうやら個室のような部屋で、中には机やテーブル、本棚などの家具が見える)
(廃屋なので当たり前だが、中は無人のようだ)
(ただ、家具類には廃屋には珍しく、新品とはいえないものの、あまり痛んでいないようだ)
(室内を観察し続ける優璃)
(そんな彼女は知りようもなかったが、彼女の真下の床から白い霧状のものが少しずつ浮かび上がり、彼女のジーンズにしみこんでいく)
(出ては染み込みを繰り返している上、視線は新聞受けから見える室内に集中しているので、気がつきようがなかった)
(それとは別に彼女の視界にも異変が現れる)
(新聞受けの向こう側がまるで墨でも垂らしたかのようにどんどん黒く覆われていく)
(そして完全に真っ暗になると同時に、その暗闇から二つの目がギョロリと開き優璃を見る)
(しかも目の位置は優璃のすぐ目の前……新聞受けの中だ)
(驚いて離れても新聞受けは開いたまま)
(そこから二つの瞳は優璃を見つめている)
(暗闇に包まれているにも関わらず、真っ白な白目と黒目ははっきりと確認できる)
(それは恐怖を感じさせるものかもしれないが、見られていると妙に身体が熱く火照っている)
(まるで欲情しているかのように……)