>>119
(襖を開けるとなぜか動物がいるかのような臭いがして、眉をひそめてしまう)
(臭いが気になったけど、急いでいる私はそのまま廊下を進もうとした)
(でも、板張りの床に足を置いたところで、動きが止まる)
……な、なにか……いる……
(姿は見えないけど、『なにか』がいるのはわかった)
(気配だけじゃなくて足音も聞こえるんだから気のせいとかでも無い)
(臭いの正体もその『なにか』なんだって予想も簡単にできる)
(鳴き声は聞こえないけど、多分ソレは獣だ)
(動物は特別苦手ってわけじゃないけど、姿の見えない動物は苦手どうこうの問題じゃない)
(単純に、怖い)
……でも、ここで立ち止まってる余裕は無いよね
っ、ぅ……ぁ……これも、あるし
(巫女服が時おり変な感触を与えてくるのは相変わらず)
(声は少しずつ我慢できるようになったけど、不定期にやってくる刺激には慣れない)
(でも今は、この刺激より正体不明の獣から逃げる方が先……!)
(竦んでいた足を、勇気を振り絞って動かした)
………ッ!!!
(廊下を駆け出す方向は足音が聞こえない方を選んだ)
(間違っても獣にぶつかって刺激を与えたくない)
(走ってる間も、巫女服のことが気になったけどそれは何とか我慢して)
(やっと辿り着いた扉をあけて大広間へと)
(そして急いで扉を閉めた)
……っ、はぁ……っ! はぁ……
……これで、大丈夫よね
この服とも館とも、もうお別れよ
(肩で息をしながら閉じた扉に背中を預ける)
(もう色々と限界で、私は誰の目も無いのをいいことにその場で服を脱ぎ始めた)
(巫女服を脱いで、キャミソールとショーツだけ)
(これで大丈夫と思って、扉から離れて袋の方へと歩いて行った)
あ、あれ……なんでよ?

……まさか……っ

…………ウソよ、こんなの
(でも袋の中に目当てのスカートは無かった)
(目を丸くしながら顔を上げた私は、部屋の中を見回して愕然とした)
(ここは、さっき通った大広間じゃない)
(その事実に目の前が真っ暗になった気分だった)
畳の部屋から出るときに真逆に出ちゃった……のかな
そうだとしたら、またあの廊下通らないといけない……の
(閉めたばかりの扉を見つめる)
(姿の見えない獣のいる道を戻るのもイヤだったけど、もう一つイヤな点がある)
(それは着る服が無いということだった)
(男性用は残念ながら趣味じゃないし、変な感触のある巫女服はもう着れない)
(下着姿で獣の横を通るよりどちらか着た方がマシかも知れないけど……)

他のルートは、無いのかな……?
(迷ってしまった私はすぐに服を着るよりも先に部屋の中を見て回ることにした)
(そうしたら、新しい扉をすぐに見つけることができた)
(この先を行けば、獣は回避できる)
(でもその選択は……)
もう戻れない……ってことよね
でも、これだけ大きい館なら他の入り口があるかも知れない
(なんとか前向きに考えて、私は扉を開けた)
(扉の向こうを確認して、ヤバそうだったら戻ってこの部屋で男性用でいいから服を着るつもりで)