>>177
(汐里が進んだ廊下の先は、広いダイニングキッチンになっていた)
(清潔で明るいが、窓はどこにもない。換気扇はあるが、人が通り抜けるには小さすぎるようだ)
(壁には小さな伝言板がかけてあり、そこには『食べものはたくさんあるよ』、『うえじにするしんぱいはしなくていいよ』と書いてあった)
(部屋の隅では、大きな冷蔵庫が、ブーンと低いうなり声を立てている)
(オーブンレンジやトースター、フードプロセッサーなどの便利な台所家電も、ちゃんと揃っている)
(流し台やコンロはピカピカに磨かれ、ガラス戸棚の中には、白い陶製の食器、銀のフォークやナイフがおさめられている)
(テーブルの上には、真っ白なクロスがきちんと掛けられ、砂糖や塩、胡椒、唐辛子などの調味料のビンが並ぶ)
(そして……部屋全体に、焼きたてのクッキーのような、甘い香ばしい匂いが立ち込めていた)

(実はその匂いこそ、先ほどの廊下で見た赤鉛筆の文字のような、異常現象を引き起こすトリガーである)
(甘い匂いのする空気を吸い込むと、徐々に口の中が甘くなってくる)
(唾液が、ハチミツのように甘くなっていくのだ)
(現象はそれだけでは終わらない)
(さらにしばらく経つと、ショーツの内側が温かく、ヌルヌルと濡れた感じになってくる)
(膣の中にハチミツが生じ、愛液のようにトロトロと体外に流れ出してくるのだ)
(それだけでも奇妙な感触であろうが、このハチミツは、なんとそれ自体が生きているかのように、動く)
(その挙動をたとえるなら、まるで巨大なアメーバ。あるいは、小さく柔らかいナメクジのような軟体動物の集合体だろうか)
(汐里の口の中で、舌に絡みつくように、ウネウネと)
(汐里のおマンコの中で、膣という肉壺を優しくかき回すように、ウジョウジョ、クチュクチュと)
(流れ、伸び、広がり……這い回る)
(汐里に対して、息苦しさや、苦痛を与えたりはしない。ハチミツの動きは、まるで赤ん坊の肌をマッサージするように優しいものだ)
(しかしもちろん、くすぐったさや、性的な刺激に相当する感覚は、長く、執拗に与えられることになるわけだが……)