(腐った穴に踏み込んでしまったマリアの脚に、ムカデが大量に取りつく)
(それらはまるで粘性の高い油のように、マリアにへばりついたまま、離れようとしない)
(何匹かは、ブーツの内側に入り込み、足の甲や土踏まず、指の間などを這い回る)
(他の何匹か……といっても、ざっと十匹以上……は、ジーンズのすそから服の内側に潜り込み、マリアの長い脚を、上へ上へと登り始めた)
(ジーンズがぴっちりと肌に密着するタイプなので、ムカデがいる部分だけ、布の表面が盛り上がって見える)
(太さ一センチ、長さ十センチほどの盛り上がりが、十も二十も、モゾモゾと波打つように蠢きながら、ふくらはぎ、膝裏、ふとももへと移動していく)
(無数の脚がついた細長い昆虫が、素肌の上を這い回る感触は、かゆさとくすぐったさ、そして背徳的な快感の混ざりあった、実におぞましいものであろう)
(服の外からはたき落としたりすることは、まず不可能だ。このムカデたちを排除するには、一度ブーツとズボンと脱がなければならないだろう)
(もちろん、こんなボロボロの廃墟の中で、下半身裸になんかなりたくない、という女らしい気持ちが働くなら、ムカデたちに素肌の上を這い回られるくすぐったさを、我慢するしかないだろうが)
(もし、服の中で好き勝手に動くムカデたちを、三分ほども放置すれば……やがて彼らは、ショーツの中にまで潜り込んでくるだろう)
(尻の谷間を這いずり、肛門を細かな脚でカサカサとくすぐり。柔らかい女性器の肉に集まり、そのワレメの中に入り込もうとするかも知れない)
(玄関ホールの中は広い。ちょっとしたテニスコートほどの大きさがあるだろう)
(玄関扉の対面には、館の奥へと続く長い廊下があるようだ。その廊下の手前で、何かが誘うように、キラキラと輝いている)
(それは、比較的新しい指輪だ。小粒のダイヤモンドが、わずかな光を反射してきらびやかに光っているのだ)
(しかも、落ちているのはそれひとつではない。ブローチ、ピアス、ネックレス、ブレスレットにアンクレット。ホコリすらかぶっていない、真新しい装身具が、いくつも落ちている)
(マリアが丁寧にその装身具の山を調べれば、姉の身につけていたものを見つけ出すことができるだろう)
(ただし、気を付けなくてはならない)
(落ちている装身具の中には、床の穴に落ちているものもいくつかある)
(それをつかみ取ろうと、穴の中に手を伸ばしてしまえば……穴の中に住んでいるムカデたちが、腕を伝ってマリアの体に這い上がってくるかも知れない)