(下に履いているものを脱ぎ、性器へ侵入しようとしているムカデたちを、一匹一匹引き抜いていくマリア)
(まだワレメの上を這い回っていただけのムカデもいれば、全身の半分ぐらいが膣に入り込んでいたムカデもいる)
(前者はともかく、後者は引き抜く際に、膣壁をムカデの無数の脚で引っ掻かれてしまうので、軽い電気のような刺激が生じる)
(ただし、その刺激は強烈ではあるが、ほんの一瞬のものだ。我慢することは、不可能ではない)
(胎内に完全に潜り込まれる前に、ムカデたちを排除できたことを、マリアはほっと胸を撫で下ろすだろう)
(……実のところ、マリアがズボンを下げた時点で、すでに数匹のムカデが、完全に膣内に潜り込んでいた)
(カラダの外から、その姿を見ることはできないので、マリアはその存在を見落としていたのだ)
(しかも、そのムカデたちは、人間の感覚神経をわずかに麻痺させる粘液を、体表から分泌している)
(その粘液が、膣壁からマリアのカラダに吸収されていくため、彼女は胎内で蠢くムカデたちの存在に、気付くことができなくなる)
(うぞうぞ、ぞわぞわと……複数匹の……具体的には、五、六匹のムカデが、膣内で動き回り、子宮にまで登っていこうとしても)
(マリアは、その動きを皮膚感覚では、感じることができないのだ……)
(奥深くまで侵入を許してしまっている下半身より、上半身の方が、マリアにとっては緊急的な危機に瀕していた)
(シャツの内側で、胸や腋の下などをくすぐるように這い回る、数十匹のムカデたち)
(姉のブレスレットを取るために、彼女はそのくすぐり責めを受けることになってしまったのだ)
(無数の脚が、電動のブラシのように細かい動きで、マリアの敏感な皮膚感覚を刺激する)
(また、ムカデという生き物は、強靭なアゴも持っている。釣り針のように湾曲した、鋭いアゴだ)
(長く太い大型のムカデが、そのアゴでマリアの乳首にコリっと嚙みつく)
(さすがに、噛み千切られるようなことはない。だが、ヒトに乳首を強めに甘嚙みされるのと同じような感覚をもたらすだろう)
(コリ、コリ、コリ、コリ、と、何度も何度も、何度も嚙まれる)
(これは、乳首を乱暴につままれ、捏ねられるような、激しい愛撫に通じるものがある)
(それも、胸が性感帯である女性なら軽くイッてしまいかねない、執拗な愛撫だ)
(それが、マリアの胸にムカデが取りついている限り、いつまでも続く)
(カラダのあちこちにムカデを張りつけたまま、マリアは玄関ホールを駆け抜け、奥の廊下へと突き進んでいった)
(廊下には小さな天窓があり、ホールよりも少しは明るい。床も腐っていないようで、穴はないし、走っても抜ける心配はなさそうだ)
(ただし……カサカサ、カサカサと……ご家庭でもよく見かける茶色い蟲が、あちらこちらで見かけられる)
(おそろしいことに、壁も床も、天井も、ゴキブリだらけなのだ)
(そのうちの何匹かは、『ぶぶぶぶぶっ』と音を立てて、空中を飛び回っている)
(マリアの行く手にも、羽を広げて飛んでいる……いや、明らかに、マリアに向かって飛来してきている!)
(うまく避けなければ、顔や髪にへばりついてくるだろう。運が悪ければ、口の中に飛び込んでくることもあり得る……)