>>390
(新鮮なザーメンの混入されたシュークリームが、ほのかの口の中で噛み砕かれ、唾液と混ざり、飲み込まれていく)
(元気な精虫が、彼女の舌の上で、喉の奥で、胃の中で、ウネウネと蠢き続けているが)
(それはあくまで顕微鏡の世界での動き。ほのかには感じ取れるはずもない)

(誰のとも知れない性排泄物と、普通のリンゴジュースとで腹ごしらえをした彼女は)
(厨房の中を調べて、新しい進路を見つけようと試みている)
(彼女としては、とにかく服とカラダについたナメクジの粘液をどうにかしたいようだが……)
(当面の目標がそれならば、おそらくもうすぐ望みをかなえることができるだろう)

(ほのかが入ってきた扉とは別に、厨房の一番奥まった場所に、もう一枚別の扉がある)
(そこを開くと、明るい廊下が伸びている。もちろん、ナメクジはいない)
(それどころか、ほんの四、五メートル歩いたところには、「浴室」と書かれた扉があるのだ)
(もちろん、その扉の文字に偽りはない。扉の向こうは脱衣所になっており)
(バスタオルや、何種類かの清潔な着替えがちゃんと揃っている)
(さらにさらに、脱衣所の奥には、ちゃんとした浴室があり)
(ほのかは温かいお湯がなみなみと満たされた、立派な浴槽を見つけることができるだろう)
(お湯には入浴剤が入れてあるらしく、水面は濃いエメラルド色をしていて、ハーブのような爽やかな香りが漂っている)

(ほのかはこの浴室で、ナメクジの粘液を洗い落とすことができる)
(せっけんもシャンプーも備え付けられているので、不快な汚れが髪の毛や肌に残ることもないだろう)
(それどころか、お湯に肩まで浸かって、ゆっくりカラダを休めることだってできる)
(……ただし。湯船に入った場合、きっと予想だにしなかった恐怖に襲われることになるだろう)

(湯の中には……何かがいるのだ)
(入浴剤のせいで湯が不透明なため、姿は見えないが)
(その何かは、湯船に浸かった人間の手首と足首をぎゅっとつかんで、湯から出られないようにしてくるだろう)
(つかんでくるそれの感触は、どう考えてもヒトの手以外の何ものでもないが……)
(繰り返して言うが、湯が不透明なため、湯の中にいる何かの姿は見ることができない)
(つかんでくる力はとても強く、非力な少女では、振り払うことはまず不可能だろう)