(暗い部屋の中、一人のツインテールの少女がどこかに携帯電話をかけている)
(換気扇の回っている音こそすれ、部屋の中はわずかに湿ったコンクリートの臭いがする)

「はい、撤退の準備はバッチリです!」
(そんな部屋の様子とは裏腹に、底抜けに明るい声で電話向こうの相手に肯定の意を伝える少女)


「スケープゴートは……いつも話してた生贄の娘も今ココに居ますから。
 先程準備はひとしきり完了、お腹の中もドクターに綺麗にしてもらいました」

(そう言って部屋の中央辺りを見つめる少女。)
(灰色の粗雑なコンクリート打ちっぱなしの地下室、その中央には黒く大きな椅子が据え付けられている)
(利用する女性たちに恥辱感を与えかねないということで今ではあまり使われなくなった旧式の分娩台)
(その上に目を閉じたまま腰掛けているのは一人の少女、その両足は足受けに拘束され、両腕は上部で拘束されている)
(視線から察するに恐らく少女が先程言った"生贄の子"は彼女のことなのだろう)
(黒髪の少女の座る分娩台の周りでは大小様々な機械が色とりどりのランプ光を放っていた)


「よかったら代わりましょうか?え?要らない?はい、分かりました!」
「それじゃ、本題に入る前に……少し楽しんできますね。大丈夫、この期に及んでヘマはしませんから。」

(そう言って電話を切る)
(その間も、じっと分娩台の少女のほうを眺め続けていた。)

「薬物を使うほうは慣れていても、使われるほうには慣れてないのかな……?」
「そろそろ起きてもいいんだけどな……」

(先程下校中にこっそり飲ませた睡眠薬の量は十分慎重に計算していたはずだが少女が目をさます気配はまだない)
(ひょっとするとこのまま目覚めないかもしれない)
(そんな不吉な予感が彼女のなかでむくむくと頭をもたげはじめる)

「そんなつまらないの、あかり許さないよ?せっかく楽しむ準備してきたんだから」
「いっぱい、いっぱい……使ってみたい玩具あるんだから」
(ぴしっと、人差し指で分娩台の少女の……カレンの顎を軽く弾いてみた)
(その衝撃でカレンが目をさますことを期待して)