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「おとーさん、おとーさん! これ! これだったらボクもダンジョン探索しに行っていいでしょ! ねえ!」
一枚の張り紙を手に炉を前にして鎚を叩く人間族の男へ大はしゃぎといった様子で話しかける少女。
名前をプラットと言い、犬人族の母と人間族の父の間に産まれた齢11の元気な娘だ。
元気いっぱいな娘からその張り紙を手に取ると「どれどれ」と内容を精査する父。
その様子を眺めるプラットは、今まで何回も張り紙を手渡しては「危険すぎる」「お前にはまだ早い」と突っ返し続けただけあって真剣な様子を見せていた。
何か引っかかるところがあるのか「うーん……」と顔を顰める様子を見せるも、暫くして「……これならいいだろう」と父親は張り紙を娘に返した。
「やったー!! おとーさん、今すぐじゅちゅーしてくるね! そのあいだにおとーさんも前言ってたものを用意してて!」
ようやく父に認めてもらったダンジョン探索のクエストに飛び跳ねたくなるほどの喜びを噛みしめて歓喜の声をあげると弾丸の様に勢いよく街へと駆けていく。
つつがなくクエストの手続きは完了し、プラットの初めてのダンジョン探索が始まろうとしていた。
……その数日後、父親が張り紙に書かれた『オーバン』という名前に何故引っかかりを覚えたのか、それに気づいた後のお話は今は語られない……


翌日、冒険者ギルドの雑踏の中に小さくて可愛らしい犬人族の姿があった。
ギルドの人と話しかける人影を見かけては近寄り、人違いだと元の位置に戻る……そんな落ち着きのない様子を見せて数十分。
恰幅の良い商人風の男性、オーバンと対面することに成功する。
「わぅっ、オーバンさんよろしくお願いします! 元気いっぱい頑張ります!」
差し出された手の平を握ると、いつもの弾けるような笑顔をオーバンに向け頭を下げるプラット。
びっちょりとした彼の手汗に内心汚いと思いながらも、二人で行うダンジョン探索の期待の方が勝り負の感情を流してしまう。
挨拶はそれなりに、早速といった所でプラットは先行してダンジョンに向かって歩みを進める。
その無防備な背中にはオーバンが見せた瞳の様相に気付いている様子は一切なく、安全な内に相手の思惑に気付く唯一のチャンスを逃してしまって。


【はい、大丈夫です! むしろこっちが大丈夫かな? って不安になっちゃいそう】
【一日多くても2,3回返せればいいかなって感じですので長い付き合いになりますがよろしくお願いします!】