乙姫ちゃん、ですか。
いえ、はい。
ちゃん付けは少し照れ臭いので、乙姫さん、と呼ばせて頂きます。
そちらはお好きに呼んで頂いても構いませんよ。
(一瞬、口元が綻ぶ。学校では愛想よく振舞っているものの、本来の葵は)
(社交的でもないし、愛想もよくない。ご主人様さえ居ればいいと本気で思っている)
(それでも、明け透けな態度で接してもらえれば悪い気もしない)
(女誑し、いや、人誑しと言うべきか。警戒心が多少薄れてしまうのを感じた)
頭の良し悪しと品格に関連性はありませんからね。
とは言え、学歴より職歴の社会ですから、案外大丈夫なのではないでしょうか。
いざとなれば自分で起業してもいいわけですし。
これからの時代、図太い性格をした方が生きやすいかと存じ上げます。
(案内されながら説明を受ける)
(なるほど。アイドルとは闇の深い職業だなぁと他人事のように考える)
失礼します。
いいポスターですね。素敵な笑顔です。
(部屋に通されると、薄手のコートを脱いで脇に抱える)
(紺色のジャケットと赤チェックのスカートは学園指定のものではなく)
(変装用の衣装だ。ブラウス一体型ジャケットなので着脱も容易であり)
(あとは髪を手早く染め、カラーコンタクトをすれば別人に早変わり)
(今回はあくまで接待なので、そこまでする必要もないが)
お茶ですか、十全です。
お饅頭も好物です。一度、箱根には行ってみたいですね。
休みとかはあまり取れませんけれど。
(勧められるままソファに座る。ちなみにいつもは懐に忍ばせている各種刃物も)
(今回は出番なし。コートの内側に纏めてある。他愛のない話をしながら)
(適度な緊張感を保ちつつ、話がどう動くか見守る)
(あくまで主導権はあちらにあり、こちらはそれに対応するだけだ)