>>216
(『使命』や『目標』を大切にするなら、必ず達成しなければならない『ノルマ』がある)
(弦場あいす――という名前を、この時代で使っている、私――にも、目標があり、ノルマがある)
(それ自体は苦ではない……目標が達せられた時の喜びを思えば、努力することはまったく嫌じゃない)
(でも、厄介なことに、人生というのは、目標へ向かう一歩一歩だけで出来ているものじゃないらしい)
(脇道もある。後戻りもある。『何となく』進んでみたくなる、遠回りもある)
(人に関われば、その人の歩いている道にも、興味を引かれたりする……)
(そのことが嫌というわけじゃない。面倒というわけでもない)
(『なるほど、これも人生か』と――これまで知らなかったことを、新たに知るようになる)
(それはまったく悪くないことだ……その寄り道が、私自身の目標を邪魔するものでない限りは)

ひゃー、ひゃー……やっばー……思った以上に遅くなっちゃった……!
ああ、もう、こんな遅くなるんなら、素直に本買っちゃえばよかったんだ! 私のバカー!

(学校指定のカバンにつけた、十数個のファンシーなストラップをちゃりちゃり鳴らしながら、私は夕暮れの中を疾走する)
(放課後に何となく、コンビニに寄って、マンガ雑誌を立ち読みし始めてしまったのが、最大の失敗だった)
(気になっていた連載作品が、とても興味深い新展開を迎えていて、ついついそれを読みふけっていたら)
(いつの間にやらごらんのありさま……お天道さんが血の色になっちゃうぐらい、夕方も夕方ですよ!)
(私も悪い子ではないつもりなので、暗くなる前にはおうちへ帰りたいわけで)
(市松模様のスタイリッシュなスニーカーを、アスファルトの上でパタパタパタパタ、力の限り滑らせているわけです)

(……と。それだけだったら、別に良かったんだけど)
(コンビニからおうちまで、一直線に、何の障害にも阻まれることなく、帰ることができていれば、問題はなかったんだけど)
(目の前に横たわる、線路という高さゼロのハードルと、人の危機感を煽る、あの独特の『カンカンカン』という音によって)
(私の帰宅は、見事阻まれることになってしまった……ディーフェンス! ディーフェンス! ちくせう!)
(まあ、それだけなら、電車が通り過ぎるのを待って、またダッシュすればいいだけなんだけど……)

……あれ? 何これ? 遮断機ない……?

(立ち止まった私の背中を、何か、氷のつたうような寒気が襲う)
(ただの線路。普通のカンカン音。紅い紅い夕暮れ。……なのに、それだけじゃない、何かヤバげなものを感じる)
(隣を見る。私より少し背の低い男の人が、なにやら渋い顔して踏み切りを見つめてる)
(何かが起きる。何か、イヤな脇道に私、踏み込んじゃってる)
(そのことに気付き、ごくりとツバを飲み込んだ……黄昏のひやっこい空気の中で、何かが起ころうとしていた)

【おまたせー! こんな感じでいいかな】
【質問は……うん、これから起きる何かを見てから、考えることにしようっと!】