(カンカンカンと一定のテンポで刻まれるベルは)
(普段ならば夕陽と合わさりのどかな音に聞こえたかもしれない。しかし)
(遮断機の存在しない踏切と揺らぐ風景の中では、焦燥感を煽るものでしかない)
(ふと振り向いてみれば、そこには巻き込まれたのであろう学生がいた)
(やや短いスカートに、小麦色の肌)
(そして持っているカバンは確か渡辺も通っている学園指定のもの)
(近づき、顔の前で手を振って正気かどうか確かめる)
……おい、大丈夫か?
俺は渡辺総司、大学部一年だ。
どうやら厄介な奴に取り込まれちまったらしい、とっととここから逃げるぞ。
(パーカーのフードを下ろし、それまで隠れて見えなかった顔を露にする)
(そして辺りを見回し、小石を拾った)
(相変わらずカンカンと鳴り響くベルだけが唯一の環境音と化したこの一帯)
(渡辺はちょっとした思いつきで、小石を線路の向こう、先程渡ろうとしたあちらへ投げてみる)
(投げられた小石はまっすぐ飛び、ちょうど線路の真ん中にさしかかった瞬間だ)
(線路を目にも止まらぬ速さで駆け抜ける『何か』が、小石を跳ね飛ばしてこちらへと弾き飛ばす)
(電車よりは小さいが、夕陽に染まることなく黒一色に蠢いて見えるそれは、まさしく異形)
(渡辺への返答と言わんばかりに弾かれたそれを渡辺は正確に掴みとる)
……ベルで焦らせて、そのまま渡ればひき逃げってわけか。
たぶんこっちも……ああ無理だな、帰ることもできねえみたいだ。
(小石を来た方向へ投げてみれば、すぐ近くの交差点に近づいた瞬間)
(またも蠢く異形が瞬きよりも速く小石を跳ね飛ばし、渡辺へ返却する)
さて、どうする?最近起きてた不自然な轢死体の正体は分かったが……・
これじゃ帰れんな、知り合いにも自慢できねえ。
(まるで動けぬ二人をあざ笑うかのように、ベルの音はより一層高くなる)
(動かぬ夕陽に染まる風景の中、蠢く異形は獲物を完全に狩れると確信していた)
【異形は文字通り一瞬、接触時間は1秒もないぐらいでぶつかってきます】
【なので普通の人間ならグロ画像か電車に轢かれたようになり】
【強靭な身体を持つ渡辺でも渡り切るまでに何度も衝突されておしまいですね】
【異形の情報は以上です】