(あ、あ、あー。遮断機のない踏み切り。そしてこの禍々しい空気)
(これ絶対アレだ。近付くヤツを引きずり込んで殺す霊的なヤツだ)
(そういや、最近この辺で、轢死事故だか飛び込み自殺だかが頻発してるって噂を聞いたことあるけれど)
(そっかー、出どころはこの踏み切りかー……うわー、気付かなかったー、と、頭を抱えるあいすちゃんです)
(こーゆー巻き込み系の怪奇現象は、私の絶対ぶち殺すリストにも何匹かいるけれど)
(そのリストに、この場所で発生している事件や、この場所に棲んでいる怪物の存在は入っていない)
(だから、対処法とかないし、気構えとかもしてない……)
(あー、まったく、私ったら馬鹿だ……異能者、異形、異常現象が山のようにあふれているこの世界なのに)
(私の知っている事件にしか遭遇しないなんて、そんな風に思い込んでたなんて……考えが甘いにもほどがある!)
(たとえ未来人でも、この時代について知らないことはいっぱいある)
(遠い未来でも、すべての怪奇が解明されていないことと同じぐらい、そんなことは当たり前で当然なのだ)
……っと、ふえっ? あ、あ、あー。
えとえと、自己紹介サンクスです。私は、弦場あいす。I・C・Eのあいすっていう、今風のお名前ですよぅ。
15歳ピチピチの高等部一年でっす。……ていうか、あー、のんきに自己紹介しあってる雰囲気でもない?
やっぱり厄介っていうか、ヤバそーな感じですよね? 夕闇がひょっこり顔出して襲い来る感じ?
(なにやら妙に落ち着いている、フードのお兄さん……ワタナベさんっていうらしいけども)
(渡辺かな? 渡部かな? 渡邊かなぁ。まあ一番シンプルそうな、渡辺さんだと思っとこう)
(彼も、この異常な空気に気付いている……というか、明らかにヤバい何かがいることを確信しているようで)
(真剣な様子で、線路の様子を観察し……そこに、拾った小石を放り込んでいた)
(――と、瞬間、私の動体視力の少し上の速度で、ばびゅんと通り過ぎる真っ黒な何か)
(小石を打ち返し、この先の線路上にある死の存在を知らしめた『それ』。おそらくはこれまでの轢死事件の、元凶)
(線路にそれが居座ってるんなら、対処法として一番楽なのは、回れ右することだろーけど……)
(それはもちろん、渡辺さんも、そして黒いばびゅん野郎もわかっていた)
(渡辺さんの小石実験パート2の結果、背後の道もしっかり怪物に押さえられてました。線路でもないのに。ちくせう)
これって、そのぉ、つまりわかりやすく言いますと……「私たちは脱出不可能な罠にIN!」ってことですかね?
踏み切り渡ろうとしたら轢かれる、引き返そうとしても轢かれる。たぶん、右と左に行こうとしてもアウトな感じでしょーか。
……うーん。どーしよ……この手のピンチは初めてだにゃー……。
(耳障りなカンカン音の中、腕組みをして、現状について考える私)
(どーしよっかなー……近くはビル、駄菓子屋、アパート……)
(線路はまっすぐか? それとも、カーブしているか? 背後の道は? 周りの状況を、もう少し詳しく観察しないと)
(あ、いや、それ以前に、ひとつ確認しておかないと)
えっと、渡辺さん。あの黒い怪物をやっつけるか、あるいは、私たちが無事に逃げ切る方法ってあります?
私も……えっと……もしかしたら、この包囲から脱出できるかもって方法が、ひとつあるんですけど……。
それやると、死ぬほど痛いかもしれないんで、できれば最後の手段にしたいんですよね。
あ、というかそもそも、実行可能なのか、いろいろ確かめないことにははっきり言えませんし。
……てなわけで、どうです? 痛くなさそうな方法があるなら、ご提案プリーズしたいんですが。
(私たちが線路を観察している間にも、あのまっくろくろすけばびゅんびゅんと、己のルートをひた走っているのだろう)
(そのルートが、やがて狭まって、私たちのいる場所を通過しないうちに、何らかの行動を起こさないといけない……)
(……まだ来ないよね? 黒いのさん、私たちのいるところにダイレクトアタックはしてこないよね?)
(そうだと言って欲しいなー☆ わ、わりと切実に!)
【よっし、異形さんの情報とか、周りの環境とかしっかり確かめるですよ!】
【ちなみに、私の考えてる方法が実現可能かどうか、確かめたいんですが……】
【怪物が私たちを轢く時、角度によっては、テリトリーの外に弾き飛ばすことって、あり得ますか?】